10 / 274
◇兄貴の差し金
しおりを挟む――――……兄貴との電話、長ぇな……。
もう先に寝ちまうか。
新幹線が発車して、景色が流れ出すと、なんとなくぼんやりと、外を見つめる。
何でオレ、ここに先輩と居るんだ。
2時間前までは思いもしなかった事態。
こっから取引先行くまではいいけど――――……。
その後一緒に食事すんの? 旅館まで一緒に行くのか?
部屋は別として――――……それにしたって、2人きりの時間が、長い。
はーー。とため息をついたその時。
先輩が戻ってきた。
「――――……おかえりなさい」
「あ、うん。――――……あのさ、三上」
「?」
「今志樹と話してさ」
「……はい」
「全部ばらして良いって話になったから――――……話、聞いてくれる?」
「――――……」
全部ばらして良いって話になったから……??
なんのことやら、全然分からない。
「話が全然見えませんけど……聞きますけど……」
「うん。だよな」
そう言うと、陽斗先輩は、不意に。突然。前触れもなく。くす、と笑った。
……は――――……?
なんかものすごい、自然に笑ったけど。
いつもの無表情、どこ行った?
「三上、怒んなよ? 怒るなら志樹に怒れよ? って志樹も言ってたし……」
「――――……何がですか?」
全然分からない。
「オレが三上の教育係引き受けた時さ。志樹に、これだけは絶対に守れって頼まれた事があって」
「……はい」
なんかもう、こんな話で兄貴が絡むとろくな事がない気がする。
いやーな汗が手を湿らす。
「ぜっったいに、褒めるなって、言われたんだよ」
「――――………………は?」
ぽかん、と口、開いてしまう。
……ぜったいに、ほめるな??
「褒めると調子に乗るから、一切ほめるな、ひたすら仕事を詰め込んでいいからって、頼まれて――――…… オレ、最初は嫌だよって、散々言ったよ? でも、志樹が社長を引き継ぐ時、ある程度は蒼生にも任せたいから、とにかく一刻も早く、って頼まれて……」
「――――……」
……何を言ってるんだか、良く分からん。
「オレは、むしろ後輩は褒めて育てたいから、ほんときつくてもう最悪で」
……そうだよな。あんた、他の奴のことは、ほめるもんな。
明らかに、オレより仕事遅くて、出来もイマイチな奴らを、それでもあんたは褒めて伸ばしてる。 こないだより早くなったとか、書類の形式が整ってきた、とか、誤変換がなかった、とか。 いいとこ見つけて褒めてる。
あんたが、冷たかったのは、オレにだけ。
「……だから、そんなの絶対無理って言ったんだけどさ」
「――――……」
「――――……志樹に、お前にしか頼めないって言われて。結局しょうがないって事になって……」
「――――……」
「……でも、普通に仲良くなったら、オレ絶対褒めちゃうけどって言ったら、とりあえず2年間は、仲良くとかしなくていいから、仕事覚えさせろって。……それで三上が病んだらどーすんのって言ったら、志樹が、あいつはそんなヤワなメンタルしてねーからって言うしさ。 でも、三上がほんとに病んできたら、その話も全部無しで、オレは褒めるからって言ってたんだけど……」
「――――……」
「お前、ほんと、メンタル強くて、オレが全然褒めなくても、仲良くしなくても、なんか普通の顔してるし、仕事もどんどん覚えて、期待してるよりもずっと早く仕上げてくるし。――――……だから、とりあえず心を鬼にして、2年間、頑張ってきたんだよ」
「――――……」
「……であと少しで2年だし、もうそろそろいいだろって言ってた所で、2人で出張だしさ。 思うように話が出来ないのも、限界だと思って、今さっき志樹に、もういいだろって電話して。 やっと、OKってもらえた」
「――――……」
「…………んだけど。 三上、聞いてる?」
「……聞いて、ますよ。……聞いて、ますけど――――……」
……何だ?
……褒めなかったのも、話をしなかったのも、兄貴の依頼??
そんなバカな事ってあるかよ?
あのくそ兄貴……。
話は分かったような分からないような、まだ大分納得いかないことだらけだが、とにかく、あのくそ兄貴に対して、フツフツと、言いようのない怒りだけが湧いてくる。
93
★お読みいただきありがとうございました♡★楽しんで頂けてましたら、ブクマ&感想、おまちしてます♡(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
他にもいろいろ作品ありますのでぜひ♡
【恋なんかじゃない】
【ドS勇者vsオレ】
【Fairytale】
【Staywithme】
【やさしいケダモノ】
【溺愛ビギナー】
【水色の宝石】
【オオカミ王子は エサのうさぎが 可愛くて しょうがないらしい】
【Promise】
【ありふれた恋の音】
他にもいろいろ作品ありますのでぜひ♡
【恋なんかじゃない】
【ドS勇者vsオレ】
【Fairytale】
【Staywithme】
【やさしいケダモノ】
【溺愛ビギナー】
【水色の宝石】
【オオカミ王子は エサのうさぎが 可愛くて しょうがないらしい】
【Promise】
【ありふれた恋の音】
お気に入りに追加
1,285
あなたにおすすめの小説



別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる