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◇気まずい時間

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「ん、新幹線は予約取れた」

 そう言ってもしばらく、先輩は、スマホを弄ってる。


「部長が好きなとこ泊って良いって言ってたけど……三上、どーする?」
「どーするって?」

「一緒に泊まる?」
「――――…………」

「部屋は別が良い?」
「……別で」

「ん、分かった。ビジネスホテルじゃなくて、温泉あるとこにするかー……」


 ひとりごとみたいに呟いて、先輩が言う。
 ――――……今日は、いつもより、少し、喋るな。


 一緒に泊まるって。
 先輩の中で、ありなのか?


 オレなら、嫌いな奴とは、一緒に寝たくなんかねーけど。


「京都って、旅館多すぎ。決めらんない……新幹線乗ってからゆっくり決めよ ……」

 先輩はそう言って、スマホをポケットにしまった。


 ――――……無言の時間。
 

「あー……あのさぁ、三上」
「はい」


「――――……部長、何でお前を直で呼んだの?」
「――――……」


 ……何でって。
 …………あんたが、狙われてるから?

 ――――……言えるか。


「さあ。……行き帰りの交通費と1泊目の宿代は出してやるって言われましたけど」
「それだけ?」
「……まあ、そんな感じで」

「ふうん……なんか悪かったな、せっかくの週末なのに」
「いえ」

「つか、1泊目ってどーいう事? 2泊目があんの?」
「……したいなら2泊して、旅してきてもいいぞって。2泊目は自腹でって。交通費は帰りも出すぞって言ってましたけど」

「2泊してくの、お前」
「さあ。……分かんないです」
「まあ、でも――――……京都て、良いよな」

 なんか。 ――――……楽しそうに笑いはしないけど。
 いつもよりは、話してる気もするけど。



 でもやっぱり、笑わない。
 ――――……いつもあんなに笑う人なのに、何で、笑わないんだろ。


 よく考えると。
 営業の車とか、他の奴も居る休憩所とかで一緒になる位で、先輩とは全然プライベートの話とかはしてない。よく2年もこんなんで2人でやってきたなー…。



 ほんと。 
 ……意味わかんねー人。



 電車から降りて、新幹線のホームへ急ぐ。

 自由席、どこもガラガラで座りたい放題な感じだった。

「どこに乗る?」
「好きなとこ、どうぞ」

「え?」
「離れた方がいいでしょ? 空いてるし」

「――――……業務中だし。移動は一緒にしよ」
「別に向こうついてから、ホームで会えば」
「三上、こっち」

 ――――……聞いてねえし。

 ため息をつきながらついていくと、
 まわりに全然人が居ない所で、先輩が窓際に座った。


「向かい側、座れば?」

 ――――……はー。

 何で、こんな、真ん前に。
 しかも近いし。

 真ん前じゃなく、斜め前に、座った。
 さっき買ったペットボトルを、椅子のドリンクホルダーに置いて、鞄を隣の椅子に置いた。

 まだ走り出さない。

 まわりに誰も居ないから、静かだし。

 
「ちょっとトイレ行ってきます」
「んー……」


 京都まで2時間位だっけ……。
 ……もー……寝るか。寝ちまえば、あっという間だよな。そーしよ。



 席に戻ると、先輩はスマホを弄ってて。

「旅館ですか?」
「あ。いや……ちょっと志樹に……」

「……兄貴、ほんと仲いいですね」

「同期で入って、一緒にすげー頑張ったからな……」

 ふ、と。笑う。
 珍しい。

 ――――……兄貴の事では、笑うんだ。ふーん……。

 その笑みがまた、ムカつく。



「社長の息子なんて知らなかったから、いきなりでびっくりしたけど」
「――――……」


「でもって、びっくり同時に、弟、任されて、そっちも驚いたけど」

 ちらりと視線を流されて、また少し笑う。



 ――――……笑うと、ほんと、キレイだな。
 まあ。少ししか笑ってねえけど。

 先輩の持ってるスマホが震えだした。



「あ。志樹だ」
「デッキならOKってなってましたよ」

 今トイレに行く時に張り紙を見た。

「行ってくる」

 通話ボタンを押しながら、早足で、先輩が消えて行った。


「――――……」


 なんかやっぱりわかんねえな。
 オレを嫌いなんだと思うんだけど……明らかに嫌いだっーのは飛んでこない。でも、笑わないし、必要以上に話さないし、視線も。ちらっと見て、すぐ逸らされるし。


 ――――……ほんと。ムカつく。






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