上 下
5 / 273

◇遭遇

しおりを挟む


「――――……2年間、フル稼働で働きっぱなしってひどくねえ?」
「まあなぁ……でも、仕方なくねえ? お前の場合は、他の同期とは違うんだし」
「――――……」


 兄貴がまだ若すぎるから、いきなり社長交代はせず、既成事実的に務めさせて、周りを納得させている所。
 ――――……もう、十分な気がするけど。
 この期間に一通り仕事を覚えろと、兄貴に言われている。

 大体にして、兄貴は、素性は隠して普通の新入社員として入った営業部で、誰も抜けないような記録を打ち立てていた訳で。くわえて「若造が」などと口にできないような、あのオーラ。はっきり言って、親父よりもよっぽど、カリスマ性はある。

 とにかく兄貴が営業部時代。
 プレゼンや企画の立ち上げをしたりするのを、兄貴と一緒にやってたのが、陽斗先輩。仕事は出来る。それは認める。

 営業先に回っても、相当信頼されてるし、好かれてる。それも知ってる。
 オレが、社長である親父の息子で、社長代理の兄貴の弟っていうのを知ってるのは、先輩だけ。そこらへんも絶対漏らさないし。

 ダントツで教え方はうまいし、あの人自体が色んな事が出来るから、教えてもらえる仕事の種類も、一緒に入った同期の教育係とは全然違う。

 だから、オレを育てるために、兄貴があの人をオレにつけたのは、まあ分かる。

 ――――……分かってるけど。



「あ、蒼生先輩ー」
「やっぱり居たー」

 数人入ってきて、オレの隣に座る。

「また会社の先輩の話ですか?」
「うるせーな、お前ら、別のとこ座れよ」

「やですよ、せっかく会えたのに」
「そーですよ」

 ぎゃいぎゃいうるさい。
 族の後輩達。オレらから引き継いだこいつらも、もう下の代に引き継いで、もうとっくに足を洗ってて、マジメに会社員だったり、ちゃんと皆働いている。

 けど、やたら懐かれたままで。
 祥太郎が店を開いた事を良い事に、客として結構な頻度でやってくる。

 態度が悪かったりうるさくなると、祥太郎にシメられるのが分かっているので、結構な団体で来てても、割とお行儀良くしている。


「後輩達でずいぶん稼いでねえ?」
「あーそーだな。色んな奴、来るしな」

 オレの言葉に祥太郎もクスクス笑う。

 まあもう見た目には、誰も族の名残もねえしな……。


「蒼生先輩、あっちで飲みましょうよ」
「オレは今、祥太郎に愚痴り中なんだよ」

「もう結構愚痴ったでしょ? テーブル席いきましょ」
「後で行くから、先飲んでろよ」

「はーい」
「まってまーす」

 それぞれ返事をしながら、離れていくのを見送ってると。
 祥太郎がクスクス笑った。


「相変わらず、人気あんなあ」
「そーなのか?」
「まあ、最強だけど仲間には優しい総長、だったもんな。そりゃ人気あるよな。先週お前が居なかったから、寂しそうだったぞ。……そういや、合コンだったんだっけ?」
「ああ、そう。久しぶりに合コンだった」
「お持ち帰りした?」
「――――……んーまあ」

「何その返事」
「なんか最近、盛り上がんねえんだよなー……」

「うわー。 もう枯れた?」
「るせえな」
「好みじゃなかったの?」
「いや? ……イイ女だったけど。なんかなあ……」

「あれだな、お前は。今迄やりすぎたんじゃねえ?」
「――――……」

「やたらモテるし、特定の相手作んねえから、やりたい放題だったもんな。だからじゃねえの?」

「……まあ、引き続き、イイ女探すから良い」


 ため息をつきつつ、ビールを飲み干した。


「なんかうまいカクテル作って」
「甘いの? 甘くないの?」
「甘くねーやつ」
「はいはい」

 祥太郎がカクテルを作り始めるのを見ながら、またため息。


「お前、ほんと、ため息ばっか」


 祥太郎に苦笑いされる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...