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◇若気の至り
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「その先輩の愚痴、いつも聞いてっけど…… 何かいまいち残んねえんだよな。お前いっつも、ムカつくとか、つぶしたいとか、そんなんばっか。……結局、何がそんなにムカつくんだっけ?」
「もう言い切れねえし――――……多分、お前だったらもう3回位半殺しにしてると思うぜ?」
「はー? 蒼生が我慢してんのに、オレがすっかよ」
「いや、絶対やってる」
はー。
マジで、ムカつく。
「……で、何が一番ムカつくの?」
「全てだけど――――……喋り方とか顔とか」
「喋り方とか……顔? ……偉そうとか?? 先輩にとっては、お前はただの後輩だろ? しょーがねえじゃん」
「――――……」
別に偉そう、とかじゃない。
ただ、冷たい、だけ。抑揚がないと言うか。
他の奴には笑うのに。
……と、ここまで言うと、それはまた別の話になりそうで、口に出せない。
だからきっと、祥太郎は、はっきりオレのムカつきの原因が分かってない。
「まさかお前が、元総長なんて知らねえだろうしさ」
「……でけえ声で言うな」
「……まあ、お互い、若気の至りってやつだけどな」
祥太郎がクスクス笑う。
……そう。完全な、若気の至り。
高校時代。元々は、派手に走りたくて、騒ぎたくて入ったチームだった。
ただ、オレも祥太郎も、当初から喧嘩が強くて負ける事が無かった。いつしか最強コンビと言われるようになり、当時の総長に可愛がられるようになり――――……そして、遂には、オレが総長、祥太郎が副長を引き継いだ。
オレ達の時代は、チームの歴史上でも、最強時代と言われていて、どんどん人数も増えていき、喧嘩をふっかけてくる族は多かったけれど、結局無敗のまま、後輩にその地位を引き継いだ。
オレも祥太郎も、幼稚園からのエスカレーターの私立。頭のいいお堅い学校で、優等生。何とも言えない鬱憤を全部、そっちにぶつけてた。
髪型変えて、服装変えて、喋り方変えれば、誰も気づかない。
派手に走り回って、女にもモテて、後輩達にも慕われて。
かなり楽しい高校時代だった。
バレる事なく、上手く高校をやりすごし、そのまま大学に進んだ。
楽しみ尽くしたからか、大学に入ってからは、自分でも嘘のように落ち着いた。たまに、チームで走る時に、混ざったりする事はあったが、総長をやってたなんて事は、大学の周りの誰にも気づかれず。普通に楽しい大学生活を謳歌した。
――――……大学卒業間近の、冬。突然、親父が倒れた。
命には関わらないが、治療に長い時間がかかる病気だと言って、会社を兄貴の志樹に譲ると言い出した。今現在、社長はまだ親父だが、兄貴は社長代理として職務に就いている。
その兄貴はオレに、その会社に入り、新人から全ての仕事を覚えろ、と言い放った。とっとと覚えて、手伝えと。
で、オレの教育係についたのが、兄貴の同期で親友の、陽斗先輩、な訳で。
「兄貴の親友じゃなかったら、言う事なんか聞くかっつの……」
「――――……志樹さん、怖えもんな……」
兄貴は兄貴で、高校時代、また別の族に入ってて、伝説の総長。
オレと祥太郎は強くて有名だったけど、兄貴は、最恐で有名だった。
何をしてたかは、聞きたくねえから、聞いてない。
昔から、ほんと、出来が良くて、でも何となく逆らっちゃいけない気がする兄貴で。
「……つか、志樹さんはマジで怖い」
「今なんて、爽やかイケメン社長代理とか言われてんぞ。あのすかした笑顔見てると、背筋が凍るし」
「――――……で、志樹さんと仲良しの先輩が、お前の教育係んなったんだろ?」
「……兄貴から何て言われてんのかしらねえけど、毎日毎日毎日、ものすごい量の仕事振ってきやがって、褒めもせず、視線はものすごい冷てえし。あー……思い切り殴ったら、すっきりするだろうなあ……」
言うと、祥太郎は苦笑いを浮かべて。
それから、ふ、と気付いたように、オレに視線を向けた。
「あれ? 顔、キレイなんじゃなかったっけ」
「は?……オレそんな事言った?」
「言ってた、一番最初に。男のくせに、顔だけはすげえキレイで、それがまた腹立たしいみたいな……」
「――――……」
「そんなキレイな顔殴って、すっきりすんの?」
ついさっき自分でもちらっと考えていた事だったせいで、祥太郎の言葉に、ものすごくイラっとする。
「……男の顔とか、関係ねえし」
――――……くそムカつく事に、顔はキレイ。
肌白くて、きめ細かくて。
女子か? と思う位、睫毛長くて、透き通ってるイメージ。
――――……でも。
だからこそ、余計に、冷たい対応取られると、冷たい印象は倍増で。
余計に腹立たしくてしょうがない。
「あれ? じゃあさ、その人が、すげえ褒めてくれて、ニコニコしてくれたら、好きなの?」
「……ありえないから、考える必要なし」
「――――……あ、否定しない訳か。ふーん」
「だから、ねえっつってんだろ」
何が言いたいんだか、わかんねえな。
「もう言い切れねえし――――……多分、お前だったらもう3回位半殺しにしてると思うぜ?」
「はー? 蒼生が我慢してんのに、オレがすっかよ」
「いや、絶対やってる」
はー。
マジで、ムカつく。
「……で、何が一番ムカつくの?」
「全てだけど――――……喋り方とか顔とか」
「喋り方とか……顔? ……偉そうとか?? 先輩にとっては、お前はただの後輩だろ? しょーがねえじゃん」
「――――……」
別に偉そう、とかじゃない。
ただ、冷たい、だけ。抑揚がないと言うか。
他の奴には笑うのに。
……と、ここまで言うと、それはまた別の話になりそうで、口に出せない。
だからきっと、祥太郎は、はっきりオレのムカつきの原因が分かってない。
「まさかお前が、元総長なんて知らねえだろうしさ」
「……でけえ声で言うな」
「……まあ、お互い、若気の至りってやつだけどな」
祥太郎がクスクス笑う。
……そう。完全な、若気の至り。
高校時代。元々は、派手に走りたくて、騒ぎたくて入ったチームだった。
ただ、オレも祥太郎も、当初から喧嘩が強くて負ける事が無かった。いつしか最強コンビと言われるようになり、当時の総長に可愛がられるようになり――――……そして、遂には、オレが総長、祥太郎が副長を引き継いだ。
オレ達の時代は、チームの歴史上でも、最強時代と言われていて、どんどん人数も増えていき、喧嘩をふっかけてくる族は多かったけれど、結局無敗のまま、後輩にその地位を引き継いだ。
オレも祥太郎も、幼稚園からのエスカレーターの私立。頭のいいお堅い学校で、優等生。何とも言えない鬱憤を全部、そっちにぶつけてた。
髪型変えて、服装変えて、喋り方変えれば、誰も気づかない。
派手に走り回って、女にもモテて、後輩達にも慕われて。
かなり楽しい高校時代だった。
バレる事なく、上手く高校をやりすごし、そのまま大学に進んだ。
楽しみ尽くしたからか、大学に入ってからは、自分でも嘘のように落ち着いた。たまに、チームで走る時に、混ざったりする事はあったが、総長をやってたなんて事は、大学の周りの誰にも気づかれず。普通に楽しい大学生活を謳歌した。
――――……大学卒業間近の、冬。突然、親父が倒れた。
命には関わらないが、治療に長い時間がかかる病気だと言って、会社を兄貴の志樹に譲ると言い出した。今現在、社長はまだ親父だが、兄貴は社長代理として職務に就いている。
その兄貴はオレに、その会社に入り、新人から全ての仕事を覚えろ、と言い放った。とっとと覚えて、手伝えと。
で、オレの教育係についたのが、兄貴の同期で親友の、陽斗先輩、な訳で。
「兄貴の親友じゃなかったら、言う事なんか聞くかっつの……」
「――――……志樹さん、怖えもんな……」
兄貴は兄貴で、高校時代、また別の族に入ってて、伝説の総長。
オレと祥太郎は強くて有名だったけど、兄貴は、最恐で有名だった。
何をしてたかは、聞きたくねえから、聞いてない。
昔から、ほんと、出来が良くて、でも何となく逆らっちゃいけない気がする兄貴で。
「……つか、志樹さんはマジで怖い」
「今なんて、爽やかイケメン社長代理とか言われてんぞ。あのすかした笑顔見てると、背筋が凍るし」
「――――……で、志樹さんと仲良しの先輩が、お前の教育係んなったんだろ?」
「……兄貴から何て言われてんのかしらねえけど、毎日毎日毎日、ものすごい量の仕事振ってきやがって、褒めもせず、視線はものすごい冷てえし。あー……思い切り殴ったら、すっきりするだろうなあ……」
言うと、祥太郎は苦笑いを浮かべて。
それから、ふ、と気付いたように、オレに視線を向けた。
「あれ? 顔、キレイなんじゃなかったっけ」
「は?……オレそんな事言った?」
「言ってた、一番最初に。男のくせに、顔だけはすげえキレイで、それがまた腹立たしいみたいな……」
「――――……」
「そんなキレイな顔殴って、すっきりすんの?」
ついさっき自分でもちらっと考えていた事だったせいで、祥太郎の言葉に、ものすごくイラっとする。
「……男の顔とか、関係ねえし」
――――……くそムカつく事に、顔はキレイ。
肌白くて、きめ細かくて。
女子か? と思う位、睫毛長くて、透き通ってるイメージ。
――――……でも。
だからこそ、余計に、冷たい対応取られると、冷たい印象は倍増で。
余計に腹立たしくてしょうがない。
「あれ? じゃあさ、その人が、すげえ褒めてくれて、ニコニコしてくれたら、好きなの?」
「……ありえないから、考える必要なし」
「――――……あ、否定しない訳か。ふーん」
「だから、ねえっつってんだろ」
何が言いたいんだか、わかんねえな。
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