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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「可愛いんだけど」

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 風呂から出たら、リビングで椅子に座らされて、仁がドライヤーをかけてくれた。

「触りたかったんだよね……彰の髪」
「――――」

 しみじみ言ってる仁に、オレは何となく黙ったまま目を閉じていた。
 しばらくそのまま、乾くまで黙っていると、ドライヤーが止まった。

「ん。オッケイ」
「じゃオレもやる。貸して。仁、座って」
「……ん」

 オレがそのドライヤーを受け取ると、仁は嬉しそうに笑って椅子に座った。

 ていうか……なんか。
 そんな風に嬉しそうに笑われると。

 ……可愛くて、たまらなくなっちゃうんだけど。

 だめだ、なんか、仁の事を可愛いとか、思っちゃうと。
 胸が、ドキドキしてくる。

 可愛かった頃、思い出しちゃったりすると、キュン、とするし。
 そういえば子供の頃からほんとにずっと可愛いって思ってたっけ。

 オレにとって、「胸キュン」っていう言葉は、正直、ちっちゃい頃の仁の為にある言葉だった気がする。
 親が再婚してから、仁はいつもオレの後をくっついてきた。大きな瞳がオレを見て笑うと、本当に可愛くて。その度に子供ながらに、この子はオレが守ってあげないとって、いつも思い込んでた。

 だから、ずっと一緒に遊んだし、ずっと勉強も教えてたし。あれこれ世話を焼いてたっけ……。背を抜かれた頃にはもう「胸キュン」なんて単語は当てはまらなくなってたし。あの告白以来は、特にそんな精神状態じゃなかったし。

 ここに来て。まさか、またこんなにキュンとさせられるなんて。

 なんで、ドライヤーお返しにする、てなった位で。
 そんなに嬉しそうに笑っちゃうかなあ……。

 さっきまであんな大人っぽい顔して、散々色んな事してきてたくせに。

 もうなんか、ときめいてしまった事がちょっと悔しいというか、恥ずかしいというか。心の中で、何とか自分のまともな精神を取り戻そうとしていると。

「彰は何でそんな難しい顔してンの?」

 振り返ってオレを見つめた仁が、面白そうに笑っている。

「……難しい顔なんかしてないよ」
「してるけど」

 クスクス笑いながら、仁がそう言う。
 そのままオレは何も答えず、ドライヤーをかけ終えた。

「はい、終わり」
「ありがと」

 コンセントを抜いて、くるくる丸め終えたところで、仁に手首を掴まれて。引き寄せられた。座ったままの仁に、倒れ込むような感じで。

「じん?……ん……」

 ドライヤーをとられて、それを脇に置いた仁の手がオレの首にかかって、そのまま、下からキスされる。

「彰――……」

 唇を離して、クスッと笑った仁が下から見上げてくる。

「大好き」

 嬉しそうに、笑われると。

 ――――っ。

 何なの。
 ……ほんとにめちゃくちゃ、可愛いんだけど。

 ダメだ。これ、可愛いとか言っちゃったら、ますます調子に乗せてしまう。
 これ以上、仁に好きにされたら、もう。何も太刀打ちできなくなりそうだし。

「……ドライヤー、片付けてくるよ」
「ん、ありがと」

 とりあえず仁の今のには、何も反応しないことにして、ドライヤーを洗面台の所に片づけに行く。ついでに歯磨き粉を付けて、歯を磨く。


 ……オレ、頭おかしいかな。
 自分よりでっかくて、たくましい、弟、可愛いって、何だ。

 ……てかさ。大分セーブしてきたんだよね、オレ。
 好きだと思うことも。仁のこと、可愛いって思うことも。

 なんかもう、色んなこと、さっき抱かれてる間に吹っ切ってしまったら。
 ……心を覆ってた重い何かが消えたみたいで。

 仁を見ると、素直に、めちゃくちゃ可愛い、なんて、感じてしまう。

 どうしよう。 もう、咄嗟に可愛いって、言っちゃいそう。

 落ち着け。……可愛くは、ないよね。仁。
 ていうか、カッコいい方だと思うし。

 可愛い、なんて、何言ってんだって感じだよね……。

「オレも歯磨く」

 急に後ろから声がして仁が現れた。
 オレの隣で歯磨き粉をつけて、並んで磨き始める。

「――――」

 何で、こんなに急に、ドキドキ、するんだろ。
 ……ヤバくないか、オレ。


 なんかほんと今まで、何も感じないように頑張ってたんだな、オレ……。
 ……無駄な抵抗だった気がするけど。

「――――」

 すごく見られてる気がして、ふ、と仁を見上げると。
 仁が、にこと笑って、まっすぐに見つめてくる。

「――――」

 見つめあうのに耐えられなくて、歯磨きを終わらせて、蛇口をひねった。
 

 だから……もう。
 ……ほんと、可愛いんだけど。
 あんま、ニコニコしすぎないでほしい。


 ――――誰か、仁のニコニコを、どうにかして。



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