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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「涙」

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 ……オレは。
 仁の事が好きなんだって、もう分かってる。

 会った頃は本当に可愛くて、ただ大好きで。
 小さいながらに、絶対守るって、思ってた。

 可愛いから、カッコイイに変わっていって。
 オレの身長を追い越す位、大きくなって。
 守るって対象じゃなくなっていっても、仁はオレの側を、離れなくて。

 見つめられるその熱が、嬉しかった。
 仁もオレの事、好きなんだと思って。
 執着が嬉しいと思う位には、好きだった。

 でもあの頃は、そういう好きだとは、思ってなかった。
 仁にも、オレにも、彼女がいたし。……そんな事、考えた事もなかった。

 彰と呼ばれて、キスされるまで。
 仁がそんな対象になるなんて本当に、思った事もなかった。

 でも、おかしいと思うのに、仁の手をキスを振りほどけない、拒否できない自分が分からなくて。
 結局、逃げて。連絡も取らず、自分の中から、一生懸命追い出して。
 ……なのに、誰とも恋人にはなれずに。
 
 心の中にいつも仁ばかり、浮かんで。
 それを振り払って、でも夢にまで見て。

 そんな時。仁が、現れて。
 ……オレとのことは勘違いだったって、言った。
 なのにオレは、仁を好きだと、思って……。

 落としていた視線の先で、不意に仁の手が動いて、静かに頬に触れたように見えて。

「…………?」
 ふ、と視線を上げたら。

 濡れた仁の瞳と、視線が絡んで。
 完全に。
 固まって、しまう。

「……じ……」
「……っ……ごめ……」

 オレの呼びかけを、遮って。
 仁は、押し殺すみたいに、震える息を吸い込んだ。

「……ごめん。大丈夫」
 ふ、と息を吐く。
 
「は。情け無い、オレ……」
「……」
「自分で敢えて言ったのに…… あき兄て呼んだら…… 思ってたより……辛かったっていうか。……なんか、びっくりしただけ」
「……」

「それだけ。……ほんとごめん、大丈夫だよ」

 ……それだけって……
 仁が、泣く、なんて。

 ……胸が、痛すぎて。どうしようもないけれど。
 オレが、ここで、泣くのは、本当に、違う。

「……オレが泣いても気にしなくていいよ。駄目だよ彰……目の前で泣いたからって、そんなのに惑わされちゃ」

 まだ瞳は潤んでるのに、仁は、すこし、笑みを浮かべる。
「……っ……」

 なんて答えて良いか、本当に分からなくて。自分が情けない。
 何で。仁には、何も言えなくなるんだろう。
 何で、いつも。

「……ちゃんと考えて。もし、無理でも……オレは時間が経てば立ち直るから。大丈夫。オレの事を心配して、かわいそうだからって、受け入れてくれなくて良い」
「……」
「彰が、オレと居たいかどうかだよ。オレを彰のものにしたい?したくない?……オレは、彰をオレのにしたいよ。全部を、オレのって、思いたい」
「……」

「……オレは、彰が一番大事だから……兄弟がどうとか、男がとか、そういうのより、彰が大事。誰になんて思われてもいいよ。彰がオレを好きでいてくれるなら、なんでもいい」
「……」

 ここまで言ってくれても……オレ、何で…… 頷けないんだろ。

 どうしたら……。
 好きだって。ずっと、仁の事が、好きだって。

 言って良いと、思えるんだろ。

「いいよ、彰」
「……」

「……この先、どうしてもオレとは無理だと思うなら…… はっきり、言っていいよ」
「……」

「オレ……弟に戻るなら、ここは出て行く。いつか完全にふっきるまでは、連絡も取らないと思う。大学で会っても近づかない。いつかふっきってちゃんと会えた時には、弟に戻ってるって約束するから。もうこれ以上は、悪あがきはしないから……」
「……」

 オレが今度こそ逃げるんじゃなくて、ちゃんと無理だと言い切れば。
 仁なら、きっとそうやって、今度こそちゃんと諦めて。言った通りに、ふっきってくれるんだろうと思う。
 その方が、いいだろうって……どうしても、思う。それなのに。

「……でも…… オレは、弟には、戻りたくない」

 まっすぐに見つめられて。
 そう言われると。


 すぐ揺らぐ。
 ……もうほんと、オレ、どうしようもない。

 やっぱり、受け入れられないと伝えて。
 別々に暮らす。お互い吹っ切って、次に会う時は、兄弟。

 それが、出来ないのであれば。

 自分の気持ちをちゃんと、認めて。
 好きだと伝えて…… 仁と恋人に、なる。
 ……恋、人……? ……そんなの、なれる……?

 もう、その二択しかない。
 どちらを選ぶべきか、と聞かれたら、そんなの結論はとっくに出てる。 
 
 でも。仁の瞳を、見てると。 
 選ぶべき……が、揺らぐ。




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