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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「何を伝えたいか」

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「――――おかえり」

 チャイムを鳴らすのもどうかと思われたので、自分で鍵を開けてドアを開いたら。
 最大限にむすっとした仁に、玄関で迎えられた。
 
「……ここで待ってたの?」
「――――片桐さんからもうすぐつくと思うって入ったから、待ってた。おっそい、彰」
「……」
「早く入って」

 頷いて家に入り、自分の部屋に鞄を置いてから、洗面所に向かう。

 はー。
 ……すごいムスッとしてるし。

 ――――でもなんか。逸らす事なく、まっすぐに、見つめてくる。

 
 ――――あんなに、ずっと、避けてたのに。
 顔も見れなかったのに。なんでか、すごく普通に話しかけてくる。


「彰」
「え?」

 手を洗っていたら、仁が顔をのぞかせた。


「コーヒー、淹れて?」
「――――」

「……淹れてくれる?」
「――――うん」

「待ってるね」

 そう言って、仁は戻って行った。

 ずっと、飲まなかったのに。
 ――――淹れたら、飲んでくれるって、事だよね。

 ――――なんか。
 そんな事が、こんなに嬉しいとか。

 ……ヤバいな。……オレ。
 ちょっと――――泣きそうかも。

 泣くな泣くな、こんな事で。
 ふー、と息をつく。

 ……ていうか。オレ、ほんとにヤバいな。

 仁の顔、普通に見れるだけで。
 ――――それだけで、もう、ちょっと泣きそうなんだけど。

 ……こんなんで、話、ちゃんと出来るかな。

 何とか、気持ちを落ち着かせてから、リビングに戻る。

 とりあえず、コーヒーを淹れる事ができるのは嬉しい。
 何にもする事ないと、仁の前に、いきなり座らなきゃいけないし。

 なるべくゆっくり、コーヒーを淹れる。
 座って、スマホを触ってた仁は、テーブルにそれを置いて立ち上がった。

「――――」

 隣に立たれて。
 すごい、ドキドキする。

 ……何なんだこれ。もう。


「ごめんね、毎日淹れてくれてたのに、飲めなくて」
「――――いいよ、別に」

「……なんか、彰のコーヒー飲んだら…… 顔見るの、我慢できなくなりそうでさ……」
「……っ」

 何、言ってんだろ、仁……。
 そんな事言いながら、こんな近くで、見つめんの、勘弁してほしい。

「コーヒー持ってくから……座ってていいよ?」

 手が震えそうで、そう言うと。

「――――」

 少し無言の後。
 ん、と頷いて、仁が戻る。

 ゆっくり、コーヒーを淹れて。
 それでも……淹れ終わってしまって。

 仁の前に、コーヒーを置いた。
 向かい側に、座って。

 緊張して、コーヒーを口にする。

「彰、ほんとに痩せたかも」
「……少し食べるの減ってただけだから。大丈夫」

 じっと、痛いくらいに、見つめてくる。
 しばし、無言の後。

「こないだ、ほんとにごめん」
「……」

 急に核心に触れられて、コーヒーを持っていた手が、咄嗟にびくと震えた。

「……もう絶対あんな事しないから、そんなビクビクしないで」

 そう言われて見上げると、仁が苦笑いを浮かべていた。

「完全に嫉妬。他の奴が触ったとこ、全部オレが触るって、思っちゃって……ごめん」
「――――」

「……オレ、もう彰の事、諦めようと思ってたから……顔見るのも、辛かったからさ……ずっと避けてたのも、ごめん」

 ――――諦める、か。
 ……そう、だよね。

 ――――うん。

 思わず俯いた時。
 寛人の言葉が浮かぶ。

 仁がどう言うかは、関係なく、
 オレが、何て言いたいか。

 ……。
 オレは……。

 仁に何を伝えたいんだろ。

 仁がオレを諦めるって決めたなら、それはそれでもうしょうがないと、思うんだけど。

 ……何も伝えないで、それを受け入れて、後悔しないか。
 でも……諦めるって決めた仁を、惑わすような事言うのも……。

 何が仁にとって良いのか、わからない。


 コーヒーのマグカップを、ぎゅ、と握る。


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