93 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」
「切ない」
しおりを挟むその日から――――仁とは、まったく顔を合わせなくなった。
食事は全部外でしてるみたいで。
午前中出て行ったり。帰りもすごく遅い時もある。
家では、必要な事だけを済ませたら、あとは自室に行ってしまう。
塾には、大学が始まって落ち着くまでは休むと、連絡したらしい。
とにかく、一緒に暮らしてて、こんなに会わないでいられるんだと驚くくらい、仁は、徹底してたし。
オレも、顔を合わせないようにしてと頼まれたから。それを、守ってた。
何日かして、寛人から様子見の電話が来て。その時、起こった事を話したら。珍しく、長い事、何も言わなかった。
とりあえず、仁の気持ちが落ち着くまで待ちたいと、オレが言ったから、そういう事になった。たまに、大丈夫か、とメッセージが入ってくるけど。 まだ会ってない、と、応えるだけ。
亮也からはちょくちょく連絡が来てるけど、とりあえず、明後日、学校が始まれば、どうせ会うし。そこで話そうって事になってる。
時が経てば経つだけ、段々泣きたい感情も薄れてきた。一人で泣くなんて事も、無くなった。
朝、仁のコーヒーは変わらず淹れていて。
仁は飲まないけど。
――――オレが淹れなくなったら。
オレからも、何かを断ち切るみたいで。何となく、できなくて。
毎日、淹れて、そのままカウンターに置いておいて。
夜までには、片づける。それだけ。
――――仁、元気、なのかな。
明日、大学の入学式、だけど。
ちゃんと用意、してるのかな。
まあ……仁の事だから、そこらへんはちゃんとしてるんだろうけど。
朝からずっとそう思っていたら、母さんから電話がかかって来た。
自分が送り出してあげられないから、
送り出してあげてね、というお願いの電話だった。
仁が、入学式用のスーツや靴を買ったという話は、母がその電話の中で言ってたので、ほっと一安心。
送り出してあげて、か――――。
……いってらっしゃいくらい。言おうかな。でもな。
――――オレと、話したくない、かな……。
そんな風に思って過ごした、翌日。
入学式の朝。また朝早く、コーヒーは淹れて。そのまま、置いておいた。
部屋でコーヒーを飲んでると。
仁が、起きて、ドアが開く音。しばらく準備してるっぽい気配がしていて。
玄関の方に、向かう足音。
部屋を、出て行くか迷って――――結局。玄関の鍵が閉まるまで。出られなかった。
仁が出て行って少しして、部屋を出て、玄関に立った。
――――入学式に、行ってらっしゃいと、送り出してあげる事も、
できない、とか。
一緒に暮らしてる意味なんて、無い気がする。……。
玄関に立ち尽くした後。
それから、少し、下がって、壁に背を預けた。
――――もう、オレの事が、嫌になった、のかな……。
なるべく、考えないようにしていたのに。
そんな風な気持ちが、浮かぶ。
試してみるなんて言って、男に抱かれてた事を知って、
怒り任せで、あんな風に、オレに触れたけど。
実際、触れたら、――――嫌だったのかも。
それで。男なんてありえないと、やっぱり、思って……。
そしたら……男に抱かれてたオレの事。
気持ち悪いと、思ったのかも。
好きどころじゃなくて。
兄とか弟としての気持ちすら、もう無くて。
もう、嫌悪しか、ないのかも。
だからこんなに――――徹底して、避けたり、出来るのかも。
……あ、なんか。
どんどん、そう考えちゃうと、キツイ、かも。
もう泣かなくなってたのに。涙、出なくなったと、思ってたのに。
――――不意に浮かんできた涙に、息を吸い込んで、少し堪える。
けれど、結局溢れ落ちて。
別に誰も見てないし、いいか。と、諦めた。
41
お気に入りに追加
673
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる