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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「涙」

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「――――?……」

 自分の部屋のベッドで、目を覚ました。

 ――――何でここに……寝て……。

 そう思った瞬間。
 ――――何があったのか、思い出した。

 え、オレ――――。
 全然、あの後の記憶がない。

 キスで息できなくて、泣いて、仁に、触れられて。
 頭、真っ白になって、――――落ちた?
 ……っ……何してんの、オレ。

 仁は――――?

 焦って起き上がると。
 ベッドの足元の方に、仁が腰かけていて、オレの起き上がった気配に気付いて、視線を向けてきた。

「――――仁……」

 名前を呼ぶと、仁が、静かに息を付いて。静かに静かに、話し始めた。

「――――気、失わせるとか……ほんとごめん。……大丈夫……?」

 さっきの仁が、幻だったみたいな。
 静かすぎる、声。

 ただ、頷いて見せる。

「……オレ……無理矢理なんて、もう絶対しないって決めてたのに……彰の事、オレより知ってる奴が居るのが……許せなくて……」
「――――」
「自分が、こんなに抑えがきかないって――……ほんと、情けない。……ごめん」

 なんて、言えば、良いんだ。
 こんな辛そうに、話す、仁に。

 ――――オレ、何て言えば……。

「……仁、オレ さっきの――――」

 全然平気だから。
 オレが悪いから。仁は悪くないから。大丈夫だから。

 仁に言っておきたい自分の想いを、言葉にするなら、それだったんだと思う。 でも。
 口からは、出せなかった。

 平気――――じゃない。
 ……仁のかわりに、仁じゃない奴に抱かれて。
 その後も、ズルズル、関係続けて。それを知られて、傷つけた。

 ……仁は多分――――。
 まだオレの事、好きでいてくれたんだと、さっき、分かった。

 キスしたのも、触れたのも。好きで、いてくれた、から。

 好きじゃなかったら――――。
 オレが 誰と寝てたって、怒らないだろうから。

 キスされて――――分かったのは。
 やっぱりオレは、仁のキスが――――嫌じゃないってこと。

 キスが嫌じゃない時点で、オレが、仁のことを好きだってことも。
 
 でも、分かったけど――――。
 あんなに傷つけて。あんな事をさせて。こんな風に謝らせて。

 平気だとか、大丈夫とか。
 ……どうやって言えばいいんだか、分からなかった。

 沈黙が辛かったけれど――――。
 ――――何も。話す言葉が、出てきてくれない。


 長い沈黙の後。


「……彰―――― オレ、しばらく、彰と離れたい」

 オレは、俯いていた顔を咄嗟にあげて、仁を見つめるけれど。
 仁は、顔を逸らしたまま。

「しばらく顔合わせないようにする。飯とか家事とかも、オレの分はオレでやるから、放っておいて。連絡も取らない。しばらく……彰も、オレに会わないようにしてくれると助かる……」

「――――」

「ごめん、彰。頭冷やすから。もう、絶対、あんな事、しない。本当に最低なお願いだけど……さっきの忘れてくれない、かな……」
「――――」

「――――忘れてくれたら…… 今度こそちゃんと、弟に戻るから」

 ――――体の中が、一気に冷えた。
 冷たい。

 ……「弟に戻る」の方には触れられずに。

「……しばらく、て……?」

 そっちを、聞いた。

「――――分かんない。頭、完全に冷えたら……オレから、話しかけるから。それまで。……いい?」

 頷くしか、ない。

「――――本当に……ごめん」

 最後に、そう言って、仁は立ち上がると、部屋を、出て行って。
 ドアが、静かに、閉まった。


「――――」

 ――――胸が、痛い。

 どんな気持ちで、今の言葉を言ったんだろう。

 オレが悪いのに。
 ――――全部、オレが悪いのに。

 二年前も、仁は――――まっすぐで。
 オレだけが、本当の気持ちを受け入れられなくて。 

 あれを全部勘違いだったなんて言ってまで、やり直しに来てくれた仁に。
 引きずってたオレが……バカみたいに、昔を思い出して、戸惑って。


 今、仁に何か言わないと、と思うんだけど。
 ――――何も、浮かばない。

 仁が言う通り、離れる。
 仁が それがいいなら、そうするしか、ない。

 かなりの時間を、ベッドで過ごした。

 ドアを開けると家の中は静かなので、多分、仁は自分の部屋。

 とりあえずキッチンに行った。水を飲みながらふと、作りかけだったシチューの事を思い出して、コンロを見ると。

 シチューは、出来上がっていた。

 ――――作って、くれたんだ。
 ……食べてはなさそう、だけど。

 一緒に、食べて。話して。
 ……好きだって――――言えてたら…… こんなになってなかった、かな。

 ……でも、だめか。
 ――――仁と居ない間に、オレがしていた事がバレたら……一緒か。

 ……不意に、涙が溢れて。
 次から次に、落ちていく。

「………」

 何で――――こうなったんだろう。
 傷つけて。……あんなに辛い顔、させて。


 仁のことが、本当に本当に、誰よりも、大事なのに。




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