【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「試した意味」 ※

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「……っ……」

 涙が触れたのか、仁が、ふ、と瞳を開けた。

「――――彰……」

 唇が離されて。でもものすごい至近距離のまま、仁の指に、涙を拭われた。

「――――」

 何も。言わない。

「……じ、ん……?」
「――――オレとキスすんのは……そんな泣く位、嫌?」

「――――」

 違う。
 ――――キスするのが、嫌なんじゃなくて……。

 こんな顔させて、こんな気持ちで、
 怒って、傷ついてる仁とキスするのが――――。

「――――ごめん……」
「――――何、が……?」

「……亮也、は……会った日からずっと……誘われて……」
「……誘われたら男に抱かれんの? ――――何が、ごめん、なんだよ」

 仁が眉を寄せたまま、じっと、見つめてくる。
 見つめ返すのはきつくて、俯いて、話すしかできない。

「……断ってたけど……何度も、誘われてるうちに……仲、良くなって……最初はオレ……そんな事ができるのか……試してみたかった……し…… その後は……気が向いたら、て、感じで……」

 ものすごく端的だけど、これが本当の所で。
 そこまで言って、更に俯いた。
 
「オレが男と、とか……仁が嫌なのは分かる、から。だから、ごめんて……言った……」
「……何だよ、それ」

 仁の低い声が、静かに、漏れて。

「彰、自分が何言ってるか、分かってんの?」

 そう言われて、仁を見上げた。

「……どういう意味?」

 何を言ってるかは、分かって話してたつもりなので、仁の言ってる意味が分からなくてそう聞くと。仁はまた眉を寄せて。まっすぐ見下ろしてくる。

「あいつが好きだから付き合ったんじゃねえの? ――――試してみたかったから、寝たの?」
「――――ん……付き合っては、ない……けど……」

「試してみたかったって、それ、何でなのか、自分で分かんないの?」
「――――何でって……」

 何でって。
 ――――何でって、何? 

 何が、聞きたいのか、全然分からない。

 仁の手が、オレの腕を掴んで。
 ぐ、と力が込められた。

 痛い、と思ったけど――――仁の、辛そうな顔を見てたら、言えなくて。
 ただ、視線を逸らせずに仁を見ていると。


「……オレとできるか――――あいつで試したって事だろ……?」
「――――」


 ――――今言われた事を、頭の中で繰り返す。

 え、何……?

 そんなんじゃない。
 そんな訳ない。そんなんじゃ――――。


 試したかった。
 ……そんな事が出来るか、試したかった。


 ――――試す……。
 ……仁と、できる、か?


「――――」

 ……そっか……普通は―――― 試す意味なんか、ないんだ。


 性の対象が女の男は、そんな事、試そうとは、しないんだ。
 必要も意味もないし、きっと考えもしないんだ。

 じゃあ、オレは――――。
 何のために――――試したんだ……。


「……離、して…… 仁」
「――――」

「っ…… はな、してよ……」


 無理。
 オレ、今――――これ以上お前の前に居られない。


 なんかもう頭のなか、ぐちゃぐちゃで――――。
 何考えればいいのか、全然分からない。


「今、一人に、して―――― もう、無理……」
「……っ離さねえよ……」

 藻掻いていたら、背中を再度壁に押し付けられて。
 きつく、抱き締められて、動けない。


「何でそんな、試すなんて――――」
「――――っ」

「そんなんで、あいつに、抱かれたのかよ……!」
「……っ」

 首を振って、仁から離れようとしていたら。
 ぐい、と顎を掴まれて、上向かせられた。

「……何回抱かれたんだよ…… 試して、続けたって事は……よかったの?」
「――――っ」

 一瞬で、体中の血が冷えて。
 指先が、震えるのが、分かる。

「……はな、して……」

 涙が、また、溢れそうで。
 

「――――彰のイく顔…… 何回、見せたの?」
「……っ……なに、いって……はな……」

「……っ……離すわけ、ないだろ……」

 いつもの優しい、声とは全然違う。

 低い、押し殺したような、声が。 辛くて。
 涙をこらえて眉を寄せた瞬間。 再び、唇が、ふさがれた。


「――――ン……っ?……っ……」

 今度はすぐに、舌が、中に入ってきた。

「――――や、めっ…… ぅ……っ」

 振り解こうとしても、背中を壁に押し付けられた状態での、食いつくされるようなキスに、抵抗もままならない。

「……っ……」

 舌を激しく絡められて、口内、好きにされてると――――。
 ぞく、と背筋を、生理的な、ヤバい感覚が襲う。


 今―――― こんなふうに、感じたく、ないのに。


「……い、やだ…… 仁……っ」

 
 もがいて、少し離れた口が空気を求めて――――。
 瞬間、また深くキスされる。


「――――ン……っ」


 容赦ないキス。

 ――――息が出来なくて、くらくらして、のぼせてくる。





 
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