【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里

文字の大きさ
上 下
63 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「もどかしい」* 寛人side 1/2

しおりを挟む
 この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
 人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。

 この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。

 海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
 アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
 過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
 それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。


 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
 この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。


 ♢ ♢ ♢

 この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。

 エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那マナと呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変ったと呼ばれるものに分けられる。

 水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣エーテルであるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。

 水が命を育むように、真那マナは生命の活力となり。
 氷が死を呼ぶように、は生命を蝕んだ。

 元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那マナの状態である場合が多く。
 ブレーンの内側にはが多かった。
 そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。

 真那マナの泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊グレートレイスを産み。
 そしてその大霊グレートレイスからレイスが産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。

 神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護マギアスキルを与えた。

 しかしそれは、神による人のレイスに対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。

 そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊グレートレイスに還る。
 多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。




 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」

 亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。

 一瞬あっけにとられる彼女。
 それでもすぐに気をとりなおす。

「はう。何かございましたでしょうか?」
 そう首を傾げる彼女。

 それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。

「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」

 そう怒鳴り。

「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」

 と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。

 ♢ ♢ ♢
しおりを挟む
「StayWithMe」を読んでくださって、ありがとうございます。
よろしければ、お気に入り登録&応援感想(好き♡とかでも全然OKです♡)を
よろしくお願いします。
感想 59

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...