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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「今更」

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 今更、昔の仁に、心の中、乱されて。

 でも今、目の前に居る仁は、友達みたいな弟でしかなくて。
 ものすごく大事だっていう視線だけ、向けられる。

 オレの心配ばかりして、オレと一緒に、居ようとばかり、して。
 オレがどう思うかとか、いつも聞いてきて。

 ――――そのせいで、自分が仁をどう思うか……。
 毎回、自分の気持ちを、確認させられて。
 
 事故みたいな接触で、昔の事を、体で思い出して。

 気持ちでも、体でも、仁の事ばかり、考えてる気がする。

 ――――でも。

 目の前に居る、普通の弟の顔した、仁に。
 ……今、自分が思う事を、向けていい訳がなくて。

 全部、宙に浮いたみたいなとこで、想いが冷えていく。

「……あ、そうだ。寛人」
「ん?」

「……亮也にさ」
「――――亮也?」

「……セフレの相手。亮也に、やめようって話しにいったんだ、昨日」
「ああ、そいつか……初耳だな」

 苦笑いする寛人に、ごめん、と伝えてから。

「……そしたら ちゃんと、恋人になろう、て言われて」
「ん。で?」

「……待つって言われて、もう分かんなくなって、保留中……」
「――――そうか」
「絶対無理って断れない位は好きだし、すごく良い奴なんだけど……」

 そう言いながら、酒を口にする。

 寛人は、考え深げにオレを見ていたけれど。
 少し間を置いてから、声を小さくして聞いてきた。

「……彰は男を恋人にって、可能性ありなのか?」
「なんか…… オレ、別にありなのかも……よく、分かんないんだけど……」
「……絶対、無理じゃねえの?」

「……そもそも、完全に無理だったら、あいつとそんな関係になってないし……だけど……好きだけど、やっぱり恋とかじゃないから。亮也も違うと思うんだけど……だからよく分かんなくて」

「なあ……こないだも、聞いたけど。仁は、弟だから、ダメだったのか?」

 寛人の質問に、ふ、と顔を上げて。
 その言葉を、考える。

 ―――― 酔ってて、いつもより素直な心に、何だか、痛い質問。

「……つか、無理。家族だし、親も弟も居るし……おかしくなっちゃった仁の言う事、本気にして……受け入れるなんて、出来る訳なかったし。今考えたって、無理」

「親も弟もいなかったら? ……仁がおかしくなったんじゃなくて、あいつが本気だったら? ……それは、考えた?」

「……そんな前提、ありえないから、考えてない」

 そう答えたら、寛人は、眉を顰めた。

「――――お前って……」

 言うと、寛人は、ふーー、と息をついた。

「……オレって、なに?」
「――――一番大事なとこ、考えねーよな……」

「……考えてるけど」

 そう言うと、寛人はまたしばらく無言。

「……彰はさー……」
 
 黙っていた寛人が、ゆっくりした口調で、そう言った。
 俯いてた顔を上げて、寛人を見つめると。


「……余計な事考えすぎなんだよ。いいとこでもあるんだけどさ」

 寛人の言葉に、少し首を傾げると。
 

「……誰にも嫌な思いさせないようにとか、生きてく上では無理だと思えよ。一番に、自分の気持とか、一番大事な奴を考えたら?」
「――――」

 寛人の言ってる事は、分かるんだけど……周り気にしないなんて、できないし。

 一番、大事な、奴。
 ――――……一番、大事な奴……か。

 いつも、いつも、ずっと、
 頭にあるのは、一人、だけど。

 意味もよく分からないし。
 ……これから分かってしまったとしても。


 そんなの……ほんとに、今更、だ。
 




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