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◆Stay with me◆本編「大学生編」
「普通に」
しおりを挟むとりあえず、色々話した末、一度考えてくるという事で、亮也と別れて、買い物をして家に帰ってきた。
仁が帰ってくるまでは、まだ時間がある。
炊飯器の予約スイッチを入れてから、ジャガイモの皮をむき始める。
ゆっくりしかできないけど、大分、包丁の持ち方も様になってきた気がする。
一人で作って待ってるのもいいけど、やっぱり一緒に作ってた方が、楽しいし、捗る気がするなぁ……。
「――――」
一人になって、落ち着いて、よく考えてると。
――――亮也の事、大事ではあるんだけど……。
そういう意味で好き、とか、愛してる、とかいう訳じゃないから、やっぱり付き合ったりしちゃいけないんだと、根本的な所に行き着いた。
亮也とセフレになったのだって、あの感じに流されまくったから。
……オレ、多分、亮也のああいう所に、もうほんとに弱いんだと思う。
あんまり理屈とかじゃなくて。
考えさせられないようにしてくる、というか。
一緒に居たいから。
一緒に気持ちよくなるだけ。
男も女も、気持ちいい事するだけだよ、変わんないよ、なんて。
そんなような言葉たちに、ふわふわと流されて、一緒に居てしまえば居心地が良くて。
なんか、きつく抱き締められるというよりは、ほんわかと囲われる感じで、いつも過ごしてきた。
亮也じゃなかったら、男とそんな関係になってないし、
亮也とそうなったことは、後悔も、してない。
亮也とも、女の子達とも、セックスした後に、襲ってきた罪悪感は、今となって思うのは、仁を置いて逃げた事からきてたものだったんだうし。
亮也とそういう関係をもったこと自体は、全然嫌じゃなかった。
セフレをやめたいと言ったオレに、恋人になりたいなんて、言うとは思ってなかったから、びっくりしたけど。
まあなんか……亮也らしいなって、気はする。
料理の本通りに進めて煮込みながら、サラダを作り始めた時。
チャイムが鳴って、仁が帰ってきた。
考え事をしてると、すぐ気づかれる傾向にあるので、息を吸い込んで、深呼吸。
「おかえりー。お疲れ」
「ん、ただいま」
笑顔で出迎えると、ふ、と仁も笑う。
「どーだった、ランチタイム」
「すっげー忙しかった」
言いながら鞄を自分の部屋に置いてきて、洗面所で手を洗う。
「あの店、店長が三十代くらいの男の人なんだけどさ。すげえ料理うまいの。今日初めて昼食べたんだけど、ほんとうまかった。オレも習って少しずつ作ったりもするからさ、覚えてきたら、家で作るね」
話し続けてるので、オレも洗面所の入り口に立って聞いてると、仁はそう言いながら楽しそうに振り返る。
「うん。今日は、何食べたの?」
「チキンのクラブハウスサンド。うまかったよ」
「へえ。今度行く時、ランチにいこっかな」
「ん、いいよ。……あーいいけど……」
「ん?」
「ランチタイムはセットあるから安くなるけど、混んでる時は、ほぼ、客、女の子ばっかで。彰一人だと目立つかも」
「別に気にしないけど……」
「気にならないならいーけど、結構女の子、きゃーきゃー言ってる感じで、うるさいかも。十六時位とかのが少し静かでいいよ。それだと、結構休憩のサラリーマンとかも多いからさ」
「んー、でも十六時にサンドイッチは食べないしな……」
「んじゃあ、彰がランチに来る日は、なるべく静かな席、あけといてあげるよ」
クスクス笑って、仁がそう言う。
「仁シャワー浴びる?」
「ん、先浴びて良い?」
「うん。ご飯、仕上げとく」
「ありがと」
ドアを閉めて、キッチンに戻る。
煮込んだ肉じゃがの味見をして、皿に盛り付ける。
サラダとみそ汁とご飯をよそって、テーブルに並べていると、ちょうど仁が戻ってきた。
――――風呂上がり直後のシャンプーの香りは、今もするけど。
……あの時みたいに不意打ちじゃなければ。最初からそうだと分かってれば、少しだけ、心にひっかかるくらい。
仁の、まっすぐ大事にしてくれてるみたいな態度に、なんだかいつも心が動くけど、これも別に、普通のこと、にもできる。
抱き締められるとかは強烈だけど、オレが泣いたり階段から落ちたり、バカなことをしなければ、仁からはしてこない。
ていうか、あれは仁にとっては、不可抗力みたいなもんだったろうし。
もう、これからそんな機会はなくせばいい。
仁と普通に、楽しく、居られたらいい。
そう決めて、そう過ごすことにすれば、普通に居られるはず。
「肉じゃがだ。 初めて作るよね?」
「うん。本通りだから、大丈夫なはず」
「味付け、またちゃんと計量したの?」
「……したよ」
答えると、仁はクスクス笑う。
「笑うなよ。正しいやり方だろ」
言うと、仁はまた笑って。
「そうだけど、彰っぽくて」
クスクス笑う仁。
全部準備が終わって、先に食卓に座る。
「仁みたいに大体で、とか、できないからしょうがないじゃん」
「全然。悪いなんて言ってないよ」
笑いながら、仁も正面に座って。
二人で頂きます、と言う。
「ん、めっちゃうまい」
「まあ、そうだよね。本通り」
「ジャガイモ、うまくむけるようになった?」
「皮薄くなってきた」
「はは、そっか」
一番最初にむいた時は、中身が皮と一緒に剥かれて、ずいぶん小さいジャガイモになったっけ……。
「家に居た時は一切料理なんかしなかったから…… オレらが料理してるとか言ったら、母さん、びっくりするだろうな」
仁がそんな風に言って笑う。
確かに。掃除とか洗濯ものをたたむとかは手伝ったけど、料理はほとんど手伝った事がなかったっけ。
――――懐かしいな……。
「いつか母さんに、オレ達が作った料理食べさせてあげようよ」
そんな風に言う仁に、ふ、と笑って、「いいね」と、頷いた。
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