【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「考えたくない」

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 仁が考えてる間。
 頬杖をついて盤を見てる仁を、何となく眺める。

 ふふ。真剣な顔。
 手を抜くとバレるから、抜かないけど。

 ……勝たせてあげたくなってしまう。


「――――」

 仁が石を置いて、こっちに顔を上げるので、オレもまた考える。

 仁、強くなった気がする。
 やってたのかな、オレとやらなくなってからも。


「――――」

 
 今、仁と居ると――――楽しい。
 ……また元どおりになれて、ほんとに、良かった。


 このまま、ずっと、こんな風に居れたらいい、よな……。
 

 と、そこで、ふ、と止まった。


 ……ずっと……。
 ……ずっと、って…… いつまで、だろ?


 ……何を、考えるんだっけ、オレは。


 ――――仁に迫られてたあの頃のこと……。

 ……何でオレが、その手を振りほどけなかったか、てこと。
 全部考えることを拒否して―――― 逃げた、理由。

 そして、二年以上も、
 まともな恋愛もしないで、適当にしてきた意味……だっけ……??

 ……そんなの――――分かんないな……。
 今更過ぎて、分かんない。

「……彰?」
「……え?」

「彰の番だよ?」
「あ。うん」

 あ、今、どこに置いたか見てなかった。
 ぼーっとしてた。

「……ここ、置いた」

 仁が、ぽん、と指で指してる。

「あ、いいのに。言わなくて。見てなかったのが悪いんだし」

 言ったら、仁は、ぷ、と笑った。

「昔、オレがぼーとしてた時、よく教えてくれたじゃん」
「――――そうだっけ?」

「そーだよ」

 クスクス笑いながら、仁が「早くやって」と言う。

 あんまりそんな記憶、ない。
 ……覚えてない事も、きっといっぱいあるんだろうな……。

 黒石を置いてから、また考えてる仁を眺める。

 ほんと。
 真剣。

 ――――昔、向かい合ってた時は、まだ子供っぽくて。
 真剣だけど、楽しそうな表情で、盤を見てて。
 負けると毎回すごく悔しそうで。
 
 もう―――― 子供っぽいとこは、無いな。
 なんかもう、全然、違う。

 静かに、石を置いて。ひっくり返して。

 結局、少しの差で、オレが勝った。


「ちぇー。また負けた」
「仁、強くなった気がする。 オセロやってた?」
「ネット対戦はしてた。受験の息抜きで。オレ、強くなってる?」
「うん、なってる。気抜いたら負けそ」

「また今度やろ」
「……もう一回って言わないんだ?」

「ん。今はいいや」

「――――じゃまた時間ある時、やろ」
「ん」

 仁が手早く石を重ねて、片づけてく。

「仁、コーヒー、もっかい淹れようか? 冷めちゃったし」
「……じゃあ、カフェオレがいいな」
「分かった」

 オセロの片付けは任せて、コーヒーを淹れに立ち上がる。
 仁は自分の部屋に、オセロを置きにいった。


 静かになった部屋に、お湯を沸かす音だけ。

 やっぱり、昔の事をほじくり返して考えるのはやめたい。
 どうせ、思い出して考えたって、もう、関係ないし。もう、忘れたい。

 忘れて―――― これから、どう、過ごせばいいか。
 考えればいいんじゃないのかな。

 さっき別れたばっかりなのに、今寛人と話したい。
 すでに考えるの嫌になってきたって伝えたら、何て言うだろ……。


「――――彰?」
「……え?」

 部屋から戻ってきた仁が、椅子に座りながら、呼びかけてきた。


「眉間にしわ……すごいけど。何か難しいこと考えてる?」

 そう言われて、手で眉間に触れて少し擦ってると、仁が、クスクス笑った。


「――――オレこないだも言ったけどさ」
「……?」

「彰に頼られるようになりたい。……つか、少しは頼れよ」

「――――だから。 ……ちょっと生意気、仁」

 そう返すと、仁はむ、として。
 じっとオレを、見つめて。

「オレふざけてないし。本気で言ってるから」
「――――ん……ありがと」


 今度は茶化さず頷いて。
 まっすぐな、視線を、受け止める。




 だから――――。
 なんで……。

 なんとなく、どこか―――― 痛い、のか……。
 
 
 それが何なのか、全く分からない。




 ――――前は考えもしなかった。

 仁に、そんな風に言われるなんて。
 オレが、仁に頼るとか。

 だって、仁は弟で、可愛くて、守りたいって、オレが、思ってたから。

 少しは頼ってって言われるけど……。
 すでに結構、頼ってる気がする。

 仕事もかなり頼ってしまってる。仁と働いてると、スムーズで楽すぎる。
 料理とか、家事とかも、むしろ仁のが率先してやってて、自然と任せてしまってる部分も多い。

 そういうのだけじゃなくて。

 なんか、自分の中で、完全に欠けてた仁が、
 急に、すべて埋められてく、みたいな。



 なんか――――調子が狂うから、 
 ――――こんなに、ざわざわ、する、のかな。


 
 この複雑な、よく分からない気持ちを――――。
 ちゃんと考えるのって……。

 ……やっぱり……なんか、気が進まない。



 仲良くなれて良かった、で。
 済ませて、おきたい。
 





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