上 下
4 / 130
◆Stay with me◆「高校生編」

「告白」*仁

しおりを挟む
 
 あき兄が、他の誰かと仲良くしているところを見せつけられるばかりなら、むしろ同じ高校に入らなきゃ良かったと思いながら、ずっと過ごした。

 それが、余計に歪んだのは夏の終わり。

 完全に部活を引退しても、あき兄は陸上部の彼女や仲間と一緒に居た。見かける度にすごく楽しそうに笑っている。

 なんで、オレはこんなにいつも、あき兄ばかりなのに。
 なんで何も知らず、毎日楽しそうに――――……。

 そんなの、当たり前のことなのに。

 オレは、知られないように、バレないように暮らしてきた。
 わざと彼女を家に連れて帰ったり、あき兄の前で彼女と仲良さそうに電話してみたり。 だから、あき兄が、オレの気持ちなんか知るはずはない。

 あき兄は悪くない。知ってる。分かってる。

 けれど、もう、耐えられなくて。


 あき兄に、この気持ちを伝えよう。
 この苦しさを、あき兄にも押し付けようと、思いついてしまった。

 そしたらきっと――――…。
 あんな風に、ただ、楽しそうには、笑ってはいられないはず。

 そんな歪んだ気持ちが、胸を焼く。

 どうせこのまま、一人で苦しんで、隠して進んだって、嫌な終わりしか想像できない。どう転んだって、おかしくなりそうで。やばくて。真っ暗で。

 このままじゃ、こんなに大好きな人を、自分勝手に、心から憎んでしまいそうで。

 だったら――――…  どう転んだっていいから。

 あき兄を、好きでいられる内に、好きな気持ちを、伝えたくて。



 好きな気持ちを全部隠したまま嫌いになって憎んで、そっちを伝えてしまう前に。



 本当に、思ってることを、あき兄に伝えたくなってしまった。

 それが、どんな結末になったって。
 ――――…… オレが、あき兄を、憎むよりは、マシだと。


 何度、考え直しても、その結論以外、出せなかった。




◇ ◇ ◇ ◇




 その日は、テスト期間で、オレとあき兄は、午前中で学校が終わった。

 十五時から母が和己を連れて歯医者に出かけた。買い物も寄ってくると言ってたから、夕方までは、帰らない。

 家で二人きりになる時間があったら伝える。そう決めて、もう結構な時間が経った。
 基本、母と弟が家に居るので、もう今日しかないと、思った。


「……あき兄」
「……んー?……」

 机に向かってるあき兄は、問題を解いてるらしく、間延びした答えをして、動かない。数秒待って。それでも、こちらを向かない。


「――――……彰」


 初めて、あき兄を、呼び捨てにした。すると。少しして。


「……ん……?」

 きょとんとした顔で、彰が、振り返った。


「彰、話があるんだけど」

「え。いいけど……何で、急に呼び捨て?」

 別に怒る訳でもなく。
 不思議そうな顔を見ていたら。

 改めて、どうしても、伝えたくなってしまった。


「……好きだ」

「……え?」


 彰が、ふっと首を傾げた。
 オレの次の言葉を待って、何も言わない。


「彰の事が、好きだ」

「だからなんで、呼び捨て……ていうか、 好きって、何?」

「彰の事が好きで、おかしくなりそうなんだ」

「――――……?」


 オレの真意を計れないのか、彰の眉が寄る。

 椅子に座ったまま見上げてくる彰の手首を、掴んで、ぐい、と引き、自分に引き寄せた。


「……じん?」

 これでも、まだ、ただ戸惑っているだけの、表情。
 何も、伝わって、ない。


「――――……彰が好き。ずっと、ずっと、好きだった」

「――――……」


 ぎゅう、と抱き締める。


「ちょ、待って――――……ごめん、仁、一回離して……?」


 見たことのないような、彰の、戸惑った顔。

 少しは……伝わったんだろうか。


「待って…… 好きって、何?」

「――――オレ、彰の事が、好きなんだ」


「? ――――……あり、がと……?」


 きっと、まだ、半分も――――……半分どころか、全く伝わっていない。
 彰の顔を見れば、それは分かった。


「――――……」


 弟が、何を言いたいのか探りながら。
 ただ、不思議そうに見上げてくる瞳。


 彰のその目を、見つめたまま。



 オレは、その唇に、唇を重ねた。



 キス、しても。

 
 彰は、ぴくりとも、動かなかった。
 唇が、触れたまま。何回か瞬きをして。


 ただ、じっと、オレの目を、見つめ返していた。


 ゆっくり、唇を離した。


「……じ ん……?」


 オレの名を呼んで、薄く開いた唇に――――……耐えられなくなって。

 その肩を抱いて、腕の中に引き込んだ。




しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

「短冊に秘めた願い事」

悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。 落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。  ……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。   残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。 なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。 あれ? デート中じゃないの?  高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡ 本編は4ページで完結。 その後、おまけの番外編があります♡

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...