【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里

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◆Stay with me◆「高校生編」

「キス」*仁

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「――――んっ……?」

 唇を重ねて、舌を絡めたら、くぐもった声が唇の間であがった。

 何故なのか、思っていたよりもずっと弱い、有るか無いかの抵抗を、抱き込んで押さえつけて――――どれくらい、キス、していたのか。

「……っ……」

 唇の間で漏れる、彰の息が熱い。
 少しキスを離して、きつく、きつく抱き締めた。


「こういう意味で――――彰の事が、好き、なんだ」

「――じ……」

 オレの名を呼ぼうとしていた唇を、またふさいだ。彰は、また黙る。
 どうして、こんなに抵抗が、弱いのか、分からない。

 殴られるとか、突き飛ばされるとか、最悪蹴られるとか。
 何されても、文句は言えないと思いながら、してるのに。


「……っ……」


 彰とキス、してる。
 その事に、どんどん自分を、抑えられなくなる。

 抵抗と呼べるのか、少し背けられそうになる顎に手をかけ、上げさせて、また口づける。


「……ン……」

 くぐもった声。
 眉が寄って、少し苦しそうに。


 色っぽい――――そんな言葉が咄嗟に浮かんだ。
 首筋を、指で、するっと撫でる。びく、と彰が震えた。


 ――――可愛い……。
 可愛い、彰。


 今まで何人か関係した女の子との行為では、こんなに意味が分からないくらいに、興奮した事が無かった。


「――――じ、ん……っ」

 ふる、と彰が首を振って、少し離れた唇で、オレの名を、呼んだ。
 伏せられていた瞳が、開いた。
 そこに、涙が滲んでいる事に気づいて。
 オレは、彰を泣かせたという事実に、動けなくなった。驚くくらい一瞬で、興奮が引く。


「……オレと、こんな事しても……何にもならないよ……仁」

「――――」


「……仁のこと――――大事だから。今のは、なかった事に……しよう?」



 キスしてた間に――――それを考えてたのかと気づく。
 何を言うべきか、考えてたのか、と。

 咄嗟に振りほどいたり。無理やり引き離したりはしないで、きっと、オレを……傷つける事の、ないように。
 殴るとか、罵倒するとかは、考えもしないんだうろな……。


 ――――そうすれば、いいのに。


「彰に…分かってほしくて。……急に、ごめん」
「――――」

「だけど……なかったことにはしない。オレは、彰の事が、好きだから」

「仁……」

 困ったように、濡れた瞳が細められる。 
 瞬間、たまっていた涙が、流れ落ちた。


「…っ…泣かせて――――ごめん」

 こんなとんでもないこと仕掛けてるのに。
 彰の涙には、心底焦る。焦って、その雫を、親指で拭いとった。

「じ――」
「……好きで、ごめん――――ほんとに……ごめん…」


 何か言おうとしたのを遮って、思わずそう謝ってしまった。
 そしたら――――。


「――――っ……」


 オレが言った瞬間、彰の瞳から、涙が溢れ出した。

 それは、たまっていた涙が目を細めたから必然的に落ちた、なんてものではない。

 それはもう――――ボロボロと、あふれ落ちた。
 彰も驚いたみたいで、咄嗟に手の甲を唇に押し当てて、俯いた。

 泣かせたのは、間違いなく、オレ。
 本当に、悪いと、思っていたのに。

 見ていたら、たまらなくなってしまった。
 口に押し当てられた手首をつかんで、ぐい、と顔の前からどけると、もう一度、唇を、重ねさせてしまっていた。


「……っ……」


 彰の唇は、柔らかくて。
 ぎゅ、と閉じた、涙に濡れたまつげが長くて。


 可愛くて、しょうがなかった。


「……彰、好きだ……」
「――――っ」

 触れた唇ごしに――――。
 泣いて、しゃくりあげる、息が、伝わってくる。

 それでも。
 彰は、オレのことを振りほどきはしなかった。

 これ以上キスしてたら、本気で止まらなくなりそうで。
 彰を、まっすぐ見つめたまま。なんとか、キスを離した。

 彰は、手の甲で、唇を、押さえて、俯いた。


「――――仁………あの――――」


 何か言おうとした彰を、ぎゅっと腕の中に取り込んで、抱き締める。

 彰は強張っていたけれど――――。 
 その内、はぁ、と、息をついた。


「――――ほんと、お前って……」


 そう言って、彰は、オレの背中を、ポンポンと叩いた。

「……ほんとよく……予想しないこと、するよな……」
「――――ごめん……」


「無茶して怪我したりさ……頑張りすぎて急に倒れたり……突然高い木に登って落ちたり……はー……」

「……それ、いま、関係ないし」


「……オレが絶対しないような、予想外のこと、するって事だよ……」


 彰は言いながら、ぐいと自分の頬を拭った。
 それから、泣いて、震えるような息を、ゆっくりと吐き出した。


「……今まで、お前の無茶なとこ――――すぐ側で助けてきたけど……」
「――――」


「でも、今のは……オレにできる事は、無い、よな?」
「――――」


 兄貴として、諭すような、言葉に。
 ――――すごくすごく、イライラする。



 自分が何を言いたいのかすら、分からなくなる。



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