30 / 130
◆Stay with me◆本編「大学生編」
「二人だけがいい」
しおりを挟む「……帰ったの?」
「うん。近くに来たから、少し話しに来ただけだって」
「そっか」
「仁、寝たのかと思った」
「寝てない」
言いながら、仁がリビングに戻る。
「……明日の準備してから寝る」
「そっか」
仁について、リビングに入ると、片付けようと思ったコーヒーのカップがちゃんと洗われていた。
「あ。片づけてくれたんだ。ありがと、仁」
「……ん。で、 何を持っていけばいい?」
「あ、うん」
テーブルの上に置いてたメモを手に取る。
「とりあえず、印鑑と、履歴書だって。やる気あるならもう書いていってもいいって。あと、オレが今日着てたみたいな服、もってる?」
「……ワイシャツみたいなシャツはない。 黒のパンツはあるけど……」
「シンプルならいいんだけど。薄い色のセーターとかない?」
「白のVネックのセーターならあるけど」
「それでいいよ。仁は講義するわけじゃないし」
――――なんか、仁、笑わない。
気のせい、かな……。
「履歴書は――――ちょっと待ってて、オレのが残ってるかも」
部屋に戻って、棚を探す。
前に書いたまま残っていた履歴書を見つけて、リビングに戻る。
「明日、塾で書いてもいいけど……今書いちゃう?」
「ん。書く」
「これ、見本とボールペンね」
「ん」
仁は静かに履歴書を書き始める。
目の前に座って、しばらく肘をついて、眺める。
――――仁、無表情。……な、気がする。
「……仁……?」
「……ん?」
「……勝手に人を入れたから、怒ってる?」
「――――」
「……お前に聞かなかったから?」
「怒ってないよ」
履歴書から視線をあげて、まっすぐ、見つめられる。
「……さっき決めたばっかで、その後いきなり来た人じゃん。そんなので、怒るわけないし」
「――――」
静かな、瞳。
ならいいけど……と、視線を落とした。
仁は、そのまま、また履歴書を書き進めていく。
「――――仁……」
「……ん」
「……怒ってないなら、笑ってよ」
「――――」
不意に見上げられて。
ちょっと困って。ふ、と笑って見せる。
「――――…」
一瞬目が少し大きく見開かれて。
――――次の瞬間。 仁が、ふ、と笑った。
「……それ――――何年ぶりだよ」
あ。
……覚えてたんだ。
小さい頃。
仁はわりと良い子だったけど。ごくたまに仁が怒ったり、泣いたり、駄々こねたり。
宿題できなくてふてくされたり。
そんな時、オレ、よく言ってた。「仁、にっこり」って。
笑った方が可愛いよ、うまくいくよて。
なんだろう。二年前、と言わず。
それまでも、お互い中高生になってからは、そんなに密接に触れあってなかったからか。
こうして一緒に過ごしていると、小さかった頃の事ばかり、思い出してしまう。
「――――彰」
「ん」
「――――やっぱりさ」
「ん?」
「この家は、二人だけ…… でもいい?」
「――――」
「……だめ?」
「――――いいよ、仁」
「怒ってるんじゃないよ。――――ただ、何となく……」
「……いいって。分かったよ。まあお互い気は遣うし…… 人連れてくるのは無しにしよう」
「――――ありがと。彰」
仁が、少し、ホッとしたように笑んで。
また履歴書に視線を落とした。
――――怒ってたんじゃなくて……。
それ、言いたかっただけか……。
「……やなこととか、言ってくれていいからね。隠されてる方が嫌だし」
「――――ん。彰もね」
履歴書を書き進めながら、仁が頷いて、見つめてくる。
「うん。分かった」
頷くと、仁はふ、と笑んで、また下を向く。
「履歴書の写真、朝撮っていく?」
「……ん」
「そしたら今日より少し早く出ようかな…… 行ってから少し挨拶とか、準備もしたいし。七時二十分位に出よ」
「ん。了解。書けた、よ。志望動機とか、これでいい? 確認してくれる?」
「うん」
仁から手渡されて、目を通す。
「ん、大丈夫。 そしたらもう今日は、寝よっか」
「ん。そうだね」
仁は立ち上がると、リビングのドアの所で振り返った。
「――――彰、今日、色々ありがと」
「うん。おやすみ」
バイバイ、と手を振って見送ってから。
なんとなく、一人で、履歴書を眺める。
――――仁、字、キレイだな。
趣味特技、剣道ね……。
そーだ、道場、聞かないとな……。
そんな風に思っていたら、スマホが鳴った。
寛人だった。『大丈夫なら良かった』だって。
ありがとうスタンプを、送ってから、スマホをおいて、ふ、と息をついた。
――――家、二人だけがいいって思ったのは。
やっぱり亮也が来て嫌だったのかな。
怒ってない、とは言ってたけど……。
……とにかく、亮也だな。
――――会う時は、外にしよ……。
なんだか ため息が漏れる。
――――なんか今日、色々、疲れた……。
もう、寝よ。
歯を磨いて、部屋に入ってベッドに倒れると。
その日は―――― あっという間に眠りに落ちた。
42
お気に入りに追加
673
あなたにおすすめの小説
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる