【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「亮也の訪問」

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 少し考えていたら、ふっと、忘れていた事を思い出した。 

「あ」
「ん? どしたの?」

「真鍋先生に明日の朝、仁が行くって連絡しとこうと思ってたのに、忘れてた……ちょっと電話するね」
「ああ……うん」

 すぐ電話をかけて、真鍋先生に報告。
 できそうならすぐ契約もしたいから、履歴書とか諸々持ってきてと言われて、その説明をメモを取りながら聞いていたら、意外と電話が長くなってしまった。

 その時、ピンポーン、とチャイムが鳴り響いた。

「?」

 あ、今日の荷物かな? 
 仁と目が合い、仁が、オレが行くと指先で示しながら、玄関の方に姿を消す。

 明日仁に持たせるものを書きだし、真鍋先生と話を続けていると、玄関の方から、微妙な話し声。
 宅配の人とはそんな話すこともないだろうし、何だろ?と思いながら、電話したまま玄関へ向かう。


「――――?」

 仁の背中で、相手は見えない。


 荷物じゃないの……??
 電話しながら、仁の脇から覗いて――――。


「りょう――――」

 玄関に立っていた亮也に、驚いて、数秒固まった。


『彰先生?大丈夫ですか?』

 電話から呼びかけられ、あ、すみません、と返す。
 ちょうどそこで、まあそんなところかな、と真鍋先生が言ってくれたので、挨拶そこそこに電話を切る。


「あ、仁、あの――――」
「彰、友達?」

 仁が、振り返って、聞いてくる。

「うん、そう。 ごめん、中入ってていいよ、仁」
「……ん」

 仁が、ゆっくり、中に入ってく。


「……亮也、どしたの?」

 なんとなく、小声になってしまう。

「ごめんな、女の子のとこに行ってたんだけど、この近くでさ。彰に会いたくなって、電話してたんだけど繋がらないし、チャイム鳴らして出なかったら帰ろうと思ってたんだけどさ。 出たと思ったら、彰じゃないし」

「今、塾の先生とずっと電話してたから。ごめんね。 えっと、……弟なんだ、今の」
「へえ? 弟なの? すっげえイケメンな」
「はは。そう?」

「……恋人できたのかと思った」

 二人でもともと小声だったけれど、最後は、こそっと、より小さく囁かれて。 思わず、強張る。

「違うし。――――あ、今日オレが断ったから来たの?」
「だって、なかなか彰に断られたことなかったからさ。 なんかあったのかなーとも思って」

「後で電話しようと思ってたんだけどさ」
「ん?」

「弟がさ、同じ大学なの、今年から。で、うちに住むことになって。昨日決まったから、今日色々買い出しとか行っててさ」

「あー……そっか。……えーと、上がらない方が良い感じ?」
「あ……」

 玄関で話し続けていたことに気付いて。
 ごめん、と言いながら、スリッパを差し出す。


「仁、ちょっと部屋で話してくるね」
「――――」


 リビングを覗いてそう言うと、仁は振り返って、無言のまま、頷いた。


「明日塾行く時間、今日と同じか少し早い位ね。準備は朝してもいいから、先寝たかったら寝ちゃっていいよ」
「――――ん」

 また頷くだけ。
 少し引っかかるけれど、うしろの亮也が気になって、リビングのドアを閉めた。






「亮也、オレの部屋行ってて。 なんか飲む?」
「いや、すぐ帰るし、いいよ」
「……ん」

 二人で、部屋に入る。
 
 ――――と、同時に。
 亮也に、引き寄せられてしまった。


「……っっ」

 むりむりむりむり。
 プルプルと首を振る。

「っ亮也、むり」

 超小さな声で、囁く。

「――――キスだけ」

 もっと小さい声で、囁かれる。


「……お前、女の子と居たって言ったじゃん、してきたんじゃねえの?」
「……したんだけど―――― 彰とキスしたいなーと」


「……声、出そうになったら、絶対やめるからな」

 言うと、背を、ドアに、押し付けられて。「ん」と笑われた。
 亮也の顔が傾いて―――― 唇が重なる。


 舌がそっと中に入ってきて、舌に触れてくる。
 優しいキス。舌が、絡む。


「――――っ」

 息すら漏らすまいと、強張ってると、亮也の手が、首筋を撫でた。


「っ!!」

 びく、と震えると、亮也はクスッと笑って。

「かーわいい、彰」
「……ばか、ほんとに、しずか、に――――」

 また口を塞がれて、ゆっくり口内を刺激される。
 じんわり、熱くなる。

「……っもう、おわり、にして、亮也」
「――――分かった」

 とは言ってくれたけど、少し、つまらなそうな顔。
 かと思ったら。

 ぐい、と首元の服をずらされて。
 鎖骨のあたりを少しきつく吸われた。

「――――っ!」

「これだけ。つけさせて」


 ……っバカ、亮也。
 

「怪しまれないように少し話してった方がいいのかな?」

 こそ、と囁かれる。
 うん、と頷くと、亮也は、カーペットに座った。


「どこ行ってたの、今日」
「んー……あそこ行ったよ、焼肉のお店」
「あの店員の子、居た?」
「うん、居たよ。元気そうだったよ」

 水をかけられた時、一緒にいた亮也。めっちゃ笑ってたっけ。
 あれから、亮也と二人で行くと、何となくいつもあの子が元気か確認してしまう。

「あとはね、家具屋でベッド見て……本屋行って、雑貨屋さん行って……かな」
「ふーん。そっか。 オレは彰に振られたから、女の子んとこ行って…… 夕飯は居酒屋行ってた」
「で?」
「その後、女の子ん家行ってた」
「……にしては、帰ってくんの早くねえ?」
「――――彰んとこ来ようと思ってたから」
「……ほんとお前元気な」
「違うって」

 ちょっぴり苦笑いで言うと、亮也は笑った。

「顔見に来ただけだし。明日も朝から塾だろ?」
「うん、そう」

「そういえばさっきの会話さ」
「ん?」

「弟も、塾に行くの?」
「あーまだ分かんないんだけど……今日たまたま塾長に会ったら、オレのサポートで春休みバイトしないかって、話しかけられてて」
「ふうん……弟と仲いいんだな」

「――――う、ん……まあ……」

 ちょっと複雑になりながら、頷く。

「ん。とりあえず顔見れたし。 帰ろうかな」
「昨日会ってたじゃん」

 クスクス笑ってそう言うと。

「なかなか断られないからさ。どーしたのか気になっちゃて。なんか電話の様子もちょっと気になったし」
「……ごめん心配かけた?」
「勝手に気になっただけだから」

 立ち上がった亮也が、ベッドの端に座ってるオレに、キスした。

「――――ごめん、亮也、これからうちでは無理、だから」
「いいよ。家おいで」
「……ん」


 亮也は優しいし、居心地もよくて、この二年、よく一緒に居た。
 一緒にいる時は、まるで恋人同士みたいに過ごしてたけど。

 亮也にも他に相手が居て、別にオレとだけってわけじゃないし。
 そんなお互い、気にする事も、謝る事も、ほんとは無いんだけど。

「じゃあまた連絡するから」
「うん」

 二人で部屋を出ると、仁はリビングには居なかった。

「挨拶してったほうがいい?」
「んー、でももう部屋に居るみたいだから」
「そっか」

 言いながら、亮也が靴を履く。

「――――またな、彰」
「うん。おやすみ。気を付けて」

 手を軽く振って、亮也が帰っていった。

 
 ――――仁、もう、寝たのかな。
 思いながら、振り返った瞬間。


 仁の部屋のドアが、開いた。



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