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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「並んで一緒に」

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 講義が終わって、諸々雑務も終えて、十二時。

 「彰、ついてるよ。下で待ってる。急がなくていいよ」

 約二年ぶりに、仁から入ったメッセージを見て、オレは立ち上がった。

「じゃ、お先に失礼します」

 近くの先生達に声をかけていると。

「彰先生」

 社員の勇樹ゆうき先生に呼び止められた。
 オレがバイトに入った時に、色々教えてくれた、直属の上司。

「今日も真司先生休みだって?」
「はい」

「授業平気? まあ、平気だとは思うけど。負担感じてない?」
「……うーん、全部見渡せてない気がして。講義は基本は大丈夫かなとは思いますけど……」

「真司先生がやめるつもりなのかは分からないけど、たぶんそろそろ真鍋先生も話すだろうし…… 色々考えないとだなあ……」
「ですね」

「あ、悪い。帰るとこだったね。 お疲れ様」
「はい。 お先に失礼します」

 勇樹先生と別れてエレベーターの前で待っていると、真鍋先生がやってきた。

「彰先生、お疲れ様」
「お疲れ様です」

「今日は時間ピッタリ。珍しい気がするね」

 クスクス笑われて、頷く。

「あ。はい。下で弟が待ってるので」
「あれ 彰先生って、実家から出てきて一人暮らしですよね?」
「昨日から、一緒に住む事になって。 来月から同じ大学なんです」
「へえ。 優秀な兄弟ですね」

 そんな会話をしながら、一緒にエレベーターに乗り込む。

「真鍋先生は、外出ですか?」
「買い物したいものがあってね」

 一階について、ビルを出る。
 すぐ近くに待ってた仁がオレを見て動こうとしてすぐに、隣の真鍋先生に気付いて足を止めた。

 オレの様子に気付いた真鍋先生が、仁の方に目を向ける。

「弟さん?」
「あ、はい」

 真鍋先生が仁に気付いた事を、仁も気づいたらしくて。
 ちょっと首を傾げながら、仁がこっちに向かって歩いてきた。

「塾長の真鍋先生だよ。……先生、弟の仁です」
「はじめまして」

 仁がぺこ、と頭を下げている。

「彰先生にはいつも頑張ってもらってて――――あ。……仁、くん?」
「……? はい」

「彰先生と同じ大学だって?」
「はい」

「良かったら、春休み、バイトしない?」

「「え?」」

 オレも仁も同じ声を出して、真鍋先生を見る。

「今一人休みがちな先生がいて、彰先生にいつも迷惑かけちゃってて。小テストの丸付けや、プリントの回収や、質問に答えるとか。 受験終わったばかりの頭なら、全然いけると思うんだけど、どうかな?」

「――――」

 仁は首を傾げて聞いていたけれど。
 ふ、とオレに視線を流した。

「兄の手伝い、って感じですか?」
「そう。もし気に入ってくれたら、先生として続けてくれてもいいけど。またこれから求人することになると思うし。まあでも今は、春休みの彰先生の手伝いってことで、軽く考えてもらえれば。彰先生も、雑用とか頼みやすいでしょ?」

 ……真鍋先生は、オレ達の微妙な過去を知らないから。って、知るわけがないけど。
 もう、それはそれは普通に、良い事を思いついた位の感じで、まくし立ててくる。

 少し黙って話を聞いていた仁は、分かりました、と言った。

「今日はこれから用事があるので――――次回兄が出勤する時、詳しいことを聞きに行ってもいいですか?」
「もちろん。彰先生、仁くんに色々説明しておいて」
「――――はい」

「じゃあ、また。彰先生、よろしく」

 返事をして、仁と二人、真鍋先生を見送る。


「……なんか、人当たり良いのに、押し強い人だね」

 仁が、ぼそ、と言う。
 
「この僅かなやりとりで、すっごい言い当てるね、仁……」
「あ、やっぱりそういう人?」

「……まあ……いい人だよ」

 言うと、仁が、クスクス笑う。

「でもいいや。バイト探そうと思ってたし。ほんとはもうやりたいとこ、見つけてきたんだけど。……こっちが決まったら、そっちも電話して面接行ってくる」
「え、いつ見つけたの?」
「今、ここにくる間に」
「どこ?」
「受かったら言う。でも塾も、彰の手伝いくらいでいいなら、全然やるよ。春休み、暇だし」

「……あとで話すね。ごはん、食べにいこう。何食べたい、仁?」
「んー。なんかうまいもん」

 ……なんてアバウトな返答。
 クスクス笑ってしまう。

「うまいもんって、なに?」
「んー……肉?」
「肉? ステーキ? ハンバーグ? 焼き肉屋さんのランチもあるよ」
「それがいい」
「焼肉?」
「うん」

 ぷ、と笑って。
 じゃ、いこ。と歩き出す。すぐ隣に仁が並ぶ。

 二人で並んで、歩くのなんか、ほんとに久しぶり。

 ――――二年前とかじゃなくて……。
 オレが高校入った位から、一緒に歩く用事が無くなった気がする。

 ――――変なの。
 もう、会えないかと思ってた位なのに。

 急にこんなに近くに、並んで歩いてるなんて。
 普通に、話してるなんて。

「――――彰、バイト疲れた?」
「半日だし。全然平気」

「じゃあさ、ベッド買いに行った後、足りない雑貨、見に行きたい」
「うん。いいよ。雑貨ってたとえば?」
「マグカップとか」
「うちにあるのでもいいけど」

 そう言ったら、仁は、んー、と少し考えてから。

「さっき見たけど、食器とか、ひとつずつしか無くね? 一緒に食べるならおんなじ方がいい」
 そう言ってきた。

「食器そろえたいってこと?」
「うん。揃えようよ。父さんに資金援助してもらったし」
「そうなの?」
「うん。別々に暮らすとなったら、また契約しなきゃいけなかっただろ? その分のお金、揃えるのに少し使ってもいいって、さっき確認した」

「そうなんだ。ん。分かったよ」

 ウキウキ言ってる仁が何だか可愛くて。
 笑ってしまったら。

 仁が、マジマジとオレを見つめてきて。

「――――なんか」
「え?」

「……彰がそうやって笑うの、久しぶりに見た気がする」
「――――」


「……やっぱり、笑ってくれてた方が、いいや」


 ふと笑ってそう言うと、仁は、視線をオレから外して、前を向いた。


「――――」



 そんな風に言われて、何だか、胸が――――。
 少し、痛いような気がするのは……何でなんだか、良く分からない。









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