【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里

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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「普通の兄弟」

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 目覚ましの音で目が覚めて、すぐに止める。


「――朝……」


 そうだ。……今日から、仁が居るんだ。

 なんだか一気に目が覚めて、起き上がった。
 落ち着かず、とりあえず、着替えてしまう事にした。

 塾講師のバイトの服装は、ネクタイやジャケットは無し、私服でもok。
 ただ、毎回、「らしい服装」に悩むのも面倒なので、白か水色系のシャツに、黒か紺かグレーのズボンにしている。

 白のシャツに袖を通して、紺のズボンと靴下。
 そのまま洗面台で顔を洗って、歯を磨く。

 歯ブラシをくわえたまま、お湯を火にかけると、口をすすぎに洗面所にもどろうとしたら、仁が起きてきた。

「おはよ、彰」
「ん……」

 待って、と手を振って、洗面所で口を漱ぐ。

「仁、おはよ。 早いね」

 口元をタオルで拭きつつ、洗面所の出入り口に立ってる仁を振り返ると。

「うん。――――彰、その服ってバイト用?」
「塾の講師だから。いつも大体こんな感じ」

「なんか、すげー似合うね」
「え。……そう?」

 一瞬ドキッとして。
 ありがと、だけ返すと。

「……彰、朝コーヒーって淹れる?」
「うん。仁も飲む?」
「淹れるなら、飲みたいなと思って」

「コーヒー飲みたくて起きてきたの?」
「そうじゃないよ、いつも早起きしてるんだけど。でも、昨日のコーヒー美味しかったから」

 仁のそんな言葉に、ちょっと嬉しくなってしまう。

「あれ好き?」
「うん」

「オレもあのコーヒー豆、やっとすごく好きなの見つけて……ってそんなゆっくりしてる時間は無かった。仁、朝ごはんは食べる?」
「うん。食べる」
「分かった」

 急いでキッチンに戻って、コーヒーの準備をしつつ、ハムエッグと、チーズトーストをそれぞれ焼く。

 部屋に戻って、ハンカチとスマホを入れて、教材を確認。リビングに全部運んで、焼き具合を見ながら、腕時計をはめていると、仁が入ってきた。

「腕時計なんてするの?」

 仁がパンをトースターから皿に移してながら、聞いてきた。

「うん。授業中スマホ見る訳にいかないし。教室にも時計はあるんだけど、念のためね。壊れてたら困るし」
「ああ。なるほど……」

 コーヒーを淹れ終わり、ハムエッグを皿にうつす。
 テーブルに全部並べて、椅子に腰かける。

「いただきます。 ……仁って、朝いつも早いの?」
「うん。早起きしてる。いただきます」
 
「何で?」
「別に。早く起きた方が色々できるから」
「へえ……偉いなー、仁」

 ……なんて言ったら、ちっちゃい子褒めるみたいでおかしいかなと思って、一瞬黙る。
 仁は特に何も答えず、食べてる。


 どんな風に接すればいいんだろ。

 あの件は全部忘れて、弟としてなんだから、
 ――――オレは、兄として、弟、可愛がればいいのかな。

 ……だけど、可愛い、とかいう感じでは、全然ないからなあ……。

 ……対等に、接するべき??

 普通の兄弟の、二才差って……。
 どんな感じで話してるんだろ??

 なんだか、もはや基準すら、よく分からない。


 久しぶりの、仁との――――しかも、二人きりでの、食事。
 意識したら、なんだか緊張してきて、何を話そうか迷っているオレに、仁が普通に話しかけてきた。 

「な、彰、ここら辺、剣道の道場ある?」
「んー……どうだろ。 大学に剣道部あるけど……」
「それは運動部の部活だよね? そこまでがっつりやりたくないんだよね……道場で、行きたい時に行ける位のが良いな」

「そっか。塾の先生達、地元詳しいから、良いとこあるか聞いてみるよ」

 時間を見て、少し早めに食事を終えた。
 コーヒーを飲んで、ほ、と息をついてると。

 同じようにコーヒーを飲んでた仁が、微笑んだ。

「やっぱりコーヒー美味しい」

「今度、違う豆で淹れるね。そっちも美味しいから飲んでみて」
「うん。楽しみ」

 仁が、ふ、と笑う。

 あー……なんか。 
 ……ほんと雰囲気、違うな。

 反応が――――大人っぽい、ていうのかな……。

「ごちそうさま。ごめん、先終わるね」

 食器を重ねながら立ち上がろうとしたら。

「片付けとくから、そのままでいいよ」

 言われて。

「……ん、ありがと」

 と、食器から手を離した。

 歯を磨いて、髪を整えて。カバンを手に取って、玄関に向かう。
 仁も一緒に玄関まで見送りに来てくれた。

「仁、今日どうすればいい?」
「昼どっかで食べない?食べてからベッド見にいきたい」
「そしたら……どこかで待ち合せる?」

「んー、どうせオレ暇だし、彰のバイト先の塾のとこで待ってる。場所、入れといて」
「ん、分かった」

 靴を履いてから、下駄箱の中に引っ掛けていた合鍵を手に取る。
 仁を振り返って、鍵を渡した。

「これ、あげる。仁が使っていいよ」
「――――ありがと」

「じゃ、行ってくるね。あとで」
「ん。頑張って。いってらっしゃい」


 仁に見送られて、家を出る。

 ドアが閉まって、思わず、ほっとする。

 ――――なんだか。
 昨日まで、考えもしなかった事態で。

 この微妙に浮ついてる、落ち着かない気持ちを、どうしたらいいのか、よく分からない。

 話していると、ほんとに普通で。
 むしろ、すごく居心地が、良い。

 そうだった。

 あんな事になってなければ、仁はすごく可愛くて、仁と居るとすごく楽しくて、穏やかで。居心地が良かった。年が近いから、仲の良い友達同士みたいで。
 そうだ、すごく、楽しかったっけ。

 そんな遠い記憶が、よみがえってきた。

 戻れるのかな。前、みたいに。


 たまに近すぎたりすると緊張したり、何かあると、ドキ、と心臓が動くのは……まだあの時の記憶がオレの方に、残ってるだけなのかも。

 ……だとしたら――――。
 もう少し経って、慣れたら、大丈夫になるかな。

 そんな風に思ったら、少し、楽になって。


 仁に、塾の場所の連絡を、入れて。
 塾までの二十分弱の道を、早歩きで進んだ。









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