上 下
22 / 128
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「普通の兄弟」

しおりを挟む


 目覚ましの音で目が覚めて、すぐに止める。


「――朝……」


 そうだ。……今日から、仁が居るんだ。

 なんだか一気に目が覚めて、起き上がった。
 落ち着かず、とりあえず、着替えてしまう事にした。

 塾講師のバイトの服装は、ネクタイやジャケットは無し、私服でもok。
 ただ、毎回、「らしい服装」に悩むのも面倒なので、白か水色系のシャツに、黒か紺かグレーのズボンにしている。

 白のシャツに袖を通して、紺のズボンと靴下。
 そのまま洗面台で顔を洗って、歯を磨く。

 歯ブラシをくわえたまま、お湯を火にかけると、口をすすぎに洗面所にもどろうとしたら、仁が起きてきた。

「おはよ、彰」
「ん……」

 待って、と手を振って、洗面所で口を漱ぐ。

「仁、おはよ。 早いね」

 口元をタオルで拭きつつ、洗面所の出入り口に立ってる仁を振り返ると。

「うん。――――彰、その服ってバイト用?」
「塾の講師だから。いつも大体こんな感じ」

「なんか、すげー似合うね」
「え。……そう?」

 一瞬ドキッとして。
 ありがと、だけ返すと。

「……彰、朝コーヒーって淹れる?」
「うん。仁も飲む?」
「淹れるなら、飲みたいなと思って」

「コーヒー飲みたくて起きてきたの?」
「そうじゃないよ、いつも早起きしてるんだけど。でも、昨日のコーヒー美味しかったから」

 仁のそんな言葉に、ちょっと嬉しくなってしまう。

「あれ好き?」
「うん」

「オレもあのコーヒー豆、やっとすごく好きなの見つけて……ってそんなゆっくりしてる時間は無かった。仁、朝ごはんは食べる?」
「うん。食べる」
「分かった」

 急いでキッチンに戻って、コーヒーの準備をしつつ、ハムエッグと、チーズトーストをそれぞれ焼く。

 部屋に戻って、ハンカチとスマホを入れて、教材を確認。リビングに全部運んで、焼き具合を見ながら、腕時計をはめていると、仁が入ってきた。

「腕時計なんてするの?」

 仁がパンをトースターから皿に移してながら、聞いてきた。

「うん。授業中スマホ見る訳にいかないし。教室にも時計はあるんだけど、念のためね。壊れてたら困るし」
「ああ。なるほど……」

 コーヒーを淹れ終わり、ハムエッグを皿にうつす。
 テーブルに全部並べて、椅子に腰かける。

「いただきます。 ……仁って、朝いつも早いの?」
「うん。早起きしてる。いただきます」
 
「何で?」
「別に。早く起きた方が色々できるから」
「へえ……偉いなー、仁」

 ……なんて言ったら、ちっちゃい子褒めるみたいでおかしいかなと思って、一瞬黙る。
 仁は特に何も答えず、食べてる。


 どんな風に接すればいいんだろ。

 あの件は全部忘れて、弟としてなんだから、
 ――――オレは、兄として、弟、可愛がればいいのかな。

 ……だけど、可愛い、とかいう感じでは、全然ないからなあ……。

 ……対等に、接するべき??

 普通の兄弟の、二才差って……。
 どんな感じで話してるんだろ??

 なんだか、もはや基準すら、よく分からない。


 久しぶりの、仁との――――しかも、二人きりでの、食事。
 意識したら、なんだか緊張してきて、何を話そうか迷っているオレに、仁が普通に話しかけてきた。 

「な、彰、ここら辺、剣道の道場ある?」
「んー……どうだろ。 大学に剣道部あるけど……」
「それは運動部の部活だよね? そこまでがっつりやりたくないんだよね……道場で、行きたい時に行ける位のが良いな」

「そっか。塾の先生達、地元詳しいから、良いとこあるか聞いてみるよ」

 時間を見て、少し早めに食事を終えた。
 コーヒーを飲んで、ほ、と息をついてると。

 同じようにコーヒーを飲んでた仁が、微笑んだ。

「やっぱりコーヒー美味しい」

「今度、違う豆で淹れるね。そっちも美味しいから飲んでみて」
「うん。楽しみ」

 仁が、ふ、と笑う。

 あー……なんか。 
 ……ほんと雰囲気、違うな。

 反応が――――大人っぽい、ていうのかな……。

「ごちそうさま。ごめん、先終わるね」

 食器を重ねながら立ち上がろうとしたら。

「片付けとくから、そのままでいいよ」

 言われて。

「……ん、ありがと」

 と、食器から手を離した。

 歯を磨いて、髪を整えて。カバンを手に取って、玄関に向かう。
 仁も一緒に玄関まで見送りに来てくれた。

「仁、今日どうすればいい?」
「昼どっかで食べない?食べてからベッド見にいきたい」
「そしたら……どこかで待ち合せる?」

「んー、どうせオレ暇だし、彰のバイト先の塾のとこで待ってる。場所、入れといて」
「ん、分かった」

 靴を履いてから、下駄箱の中に引っ掛けていた合鍵を手に取る。
 仁を振り返って、鍵を渡した。

「これ、あげる。仁が使っていいよ」
「――――ありがと」

「じゃ、行ってくるね。あとで」
「ん。頑張って。いってらっしゃい」


 仁に見送られて、家を出る。

 ドアが閉まって、思わず、ほっとする。

 ――――なんだか。
 昨日まで、考えもしなかった事態で。

 この微妙に浮ついてる、落ち着かない気持ちを、どうしたらいいのか、よく分からない。

 話していると、ほんとに普通で。
 むしろ、すごく居心地が、良い。

 そうだった。

 あんな事になってなければ、仁はすごく可愛くて、仁と居るとすごく楽しくて、穏やかで。居心地が良かった。年が近いから、仲の良い友達同士みたいで。
 そうだ、すごく、楽しかったっけ。

 そんな遠い記憶が、よみがえってきた。

 戻れるのかな。前、みたいに。


 たまに近すぎたりすると緊張したり、何かあると、ドキ、と心臓が動くのは……まだあの時の記憶がオレの方に、残ってるだけなのかも。

 ……だとしたら――――。
 もう少し経って、慣れたら、大丈夫になるかな。

 そんな風に思ったら、少し、楽になって。


 仁に、塾の場所の連絡を、入れて。
 塾までの二十分弱の道を、早歩きで進んだ。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

上司と雨宿りしたら、蕩けるほど溺愛されました

藍沢真啓/庚あき
BL
恋人から仕事の残業があるとドタキャンをされた槻宮柚希は、帰宅途中、残業中である筈の恋人が、自分とは違う男性と一緒にラブホテルに入っていくのを目撃してしまう。 愛ではなかったものの好意があった恋人からの裏切りに、強がって別れのメッセージを送ったら、なぜか現れたのは会社の上司でもある嵯峨零一。 すったもんだの末、降り出した雨が勢いを増し、雨宿りの為に入ったのは、恋人が他の男とくぐったラブホテル!? 上司はノンケの筈だし、大丈夫…だよね? ヤンデレ執着心強い上司×失恋したばかりの部下 甘イチャラブコメです。 上司と雨宿りしたら恋人になりました、のBLバージョンとなりますが、キャラクターの名前、性格、展開等が違います。 そちらも楽しんでいただければ幸いでございます。 また、Fujossyさんのコンテストの参加作品です。

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...