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◆Stay with me◆「高校生編」
「親友」*彰
しおりを挟む「彰、お前、ほんとやばい。どうしたのか、言え」
ついに。
元生徒会長。しかも、中学と高校の。
小学生の時からの付き合いの。
超切れ者の親友、片桐寛人かたぎり ひろとに、そう言われてしまった。
「……何でもない」
言ったら、すごい目で、睨まれた。
「そんなバレる、嘘、つくな」
「――――じゃあ……嘘はつかないけど……話せない」
塾のない今日、仁から逃げるみたいに、家から徒歩十分の所にある、寛人の家で勉強させてもらっていた。
寛人は自分の机で。オレは、その後ろにあるテーブルで。
全然捗らなくて、小さくばれないようについていたため息が、モロにバレていたみたい。
「静かにしてたって、分かる。ため息ばかりで、気が散る。お前の勉強もはかどらないだろ。悩んでるなら、言ってすっきりしちまえ」
「……むり……」
なんて言えば良いんだよ。
仁にキスされて、好きだって言われて、心乱れて、もう、どうしたらいいか分からないって?
絶対無理……。
「麻友まゆちゃんと最近うまくいってないだろ」
「――――うん、まあ……」
うまくいってない。
――――麻友とキスしようとすると……仁が、浮かんで。
キスすら、できなくなったオレに、麻友は、他に好きな人がいるのかと、聞いてきた。
そんなんじゃない、と言ってるんだけど――――。
こんな状態で、うまくいくはずがない。
「うまくいってない事じゃねえだろ。そっちじゃなくて、うまくいかなくなった原因の方、悩んでんだろ」
「――――」
……うまくいかなくなった原因の方?
何その言い方。
知ってる……訳ないよな。 絶対知らないよな。
黙ってると。寛人は、すっごく嫌そうに息を吐いた。
「オレこれを、お前に聞く日が来ないといいなと、ずっと思ってたんだけど……」
「……?」
何それ。
聞く日がこないといいな???
「……仁、じゃねえの?」
ぴきっ。
――――分かるはずない。知るはずない。
そう思ってるのに、寛人から漏れた仁の名前に、硬直するしかできない。
「……仁に告られたかなんかか? 襲われた?」
もう唖然として、寛人を見上げるしかない。
この顔でもう、大部分肯定したみたいなことになってるんじゃないかと、気づくけれど、もう、後の祭り。
「――――やっぱ、あいつ、そっちか……」
眉を寄せて。
寛人が、持っていたシャーペンを机に投げた。
椅子から降りて、オレの勉強道具をどけて、向かい側から、まっすぐ睨むように見つめられた。
「オレにとっても、知らない奴じゃねえし。――――話してみな」
小学校から一緒だから、確かに、寛人は仁の事も知ってる。
寛人は習い事が多くて、あまり公園で遊ばなかったから、仁と寛人は直接は遊んではないけれど。
小学生の頃、オレの教室に遊びに来てる仁の事も知ってるし、中学も高校も、何となくは目に入ってるらしくて。オレが、仁や和己の話をする事もあるから、寛人は、よく知ってはいた。
仁の方は、寛人の事を「彰と仲の良い生徒会長」としてしか認識してないみたいだけど。
「……寛人、なんかもう、オレ、お前、怖い。……何なの、超能力者かなんかなの……?」
「……怖いんじゃなくて―――― つか、お前が鈍いんだよ」
はー、と寛人が、ふかーくふかーく、わざとらしく、ため息をついた。
「仁の好きが、度を越してるのなんて――――分かってただろ」
「……分かんないよ。兄弟だし」
「ちなみにオレ、すっげー嫌われてると思うよ。仁に」
「え。なんで?」
「大好きなお前を、生徒会なんてものに引っ張って、ずっと独り占めしてる」
「――――」
「しかも、中高と、二回も」
「そんなの、言われた訳じゃないよね?」
「……視線がモロ言ってるから。睨みつけるみたいな視線」
「……」
「まあ……そういうのもあって、特に、オレは、嫌でも分かった訳。でもまあ、兄弟愛かもしんねえから、こういう話が出てこないで、普通にいけばいいなーと、思ってたんだけどな――――て事で、もう大体分かってるから、話しちまえよ」
「――――」
もういいか……。
言ったからって、広めるような奴でもなければ、バカにしたりもしない。
それは分かってるけど。
全く気付いてなければ、さすがにとても言えないけど、もう色々分かっててくれてるなら……話してみるか……。
そう思って。
端的に、こう言った。
「……好きだって、言われた。考え直してって、言ったんだけど……。今、仁が、キス魔になってる」
「――――」
すぐには何も言わず。
寛人は、んー、と唸ったあと。
「拒否した?」
「……応えられないって、言い続けてる」
「キスは?」
「……止めては、いる」
「止めてもされたら?」
「――――また止めてる」
「でも、受けてんのか?」
「――――最初された時、意味が分からなくて……」
寛人は、まっすぐ、オレを見て。
じっと、考えてる。
「殴り飛ばすよりも、色々考えてて動けなくて……最初受けちゃてて、なんかそしたら、どうしていいか、よく分かんなくなってて……」
「――――」
「でも何回も断って、無理って言ってるんだけど……してくる」
オレが、言い終えると、またしばらく、黙っていた。
「彰」
しばらくして、くいくい、と手招きされたので、え?とテーブル越しに前に乗り出したら。 顎を掴まれて、引き寄せられた。
「キスする」
「え……」
あっという間にキスされそうに近づいた瞬間。
オレは、寛人の胸を強く押して、後ろに退いた。
「……なっに考えて――――」
「――――ちゃんと、こうしたか?」
寛人はまったく動じず、じっとオレを見つめて、言った。
「オレはさ、お前と超付き合い長いし、生徒会とかずっと一緒にやってたし、家も近いし――――信頼も、好意も、あるよな?」
「……あるよ?」
「そのオレが、キスしようとしてさ。お前の反応は、これだろ?」
「――――」
「てか、普通、男にキスされそうになったら、この反応だと思うけど……仁がしてくる時も、ちゃんと、こうして、抵抗した?」
「――――」
……して、ないかも。
「最初は……ほんとに戸惑って――――でも、こたえられないって、断ってたのに、忘れられない諦めないって言われて……そこからされるキスは、何かもうどうして良いか分かんなくて……」
「彰」
寛人の、少し強めの声。
息を吸って、言葉を待つ。
「彰が仁の事が好きで、そうなりたいって言うなら、オレは別に、否定はしねえし、応援してほしいなら、してやる」
「――――」
「でも、弟が可愛いから、突き飛ばせずに、受けてるだけなら、やめとけ」
「――――」
「……仁のは、そんなんじゃないだろうから」
「――――」
「むしろ、期待させるのは残酷だと思う」
「――――」
そっか。
――――そうか。そうだよな……。
意味も分かんなくて、受け止めるだけなんて…
――――そうだよな。
「今、何か思ってる事あるか?」
「………寛人はさ、仁の、好きがさ――――本気だと、思う?」
「……さあ。分かんねぇ。執着はすごいと思うけど。本気かどうかは、お前が分かるんじゃねえの?」
「――――」
キスしてくる仁の――――まっすぐな、瞳。
あれが、本気じゃない、なんて……。
言えない……かも――――。
「――――はっきりしな、彰。お前には、きついと思うけど」
「うん……ありがと、寛人」
「で、ちゃんとして、勉強するぞ。 受験生だろ、オレら」
「……うん」
「話せる時、ちゃんと話してこいよ」
「……うん」
話せるだろうか、ちゃんと。
――――違う。話さなきゃ、いけないんだ。
オレは、兄貴、なんだから。
仁の行く道、ちゃんとしてやらないと――――。
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