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◆Stay with me◆「高校生編」
「彼女と別れた」*彰
しおりを挟む学校から家に帰ったら、和己が遊びに出かける所だった。いってらっしゃいと送り出して家に入ると、母さんも買い物に出かけていった。
仁は、まだ帰ってきてない。
部屋に入って、カバンをかけて。シンとした部屋を何となく見回した。
仁、帰ってくるかな……。
寛人と話して、仁と話そうと決めた日から、数日が経った。
和己や母さんが居て、仁と二人になるタイミングがないまま日が過ぎる。
その話せない間に。
昨日、麻友と、別れることになった。
だんだん、彼女のことだけを考えられなくなってしまったのが、原因。
今までみたいにキスも出来なくなって、他に好きな人が居るのかと責められて。そうではないとずっと否定はしていたけれど、結局、すごく好きだった時よりは大分冷めてしまったことを自覚して別れを決めてしまった。
最強カップルとか、呼ばれてたのにな。その頃が、なんだかもう、懐かしい。
ふ、と息を吐いたその時。玄関の鍵が開く音がした。それに続いて、階段を上がってくる足音。
「……彰」
仁が部屋に入ってきた。
望んでた、二人きりだ。
でもなんだかな。
なんか今日じゃなくてもいいのに。
「彰……彼女と、別れたの?」
そして、その、触れてほしくない事を、なんで今、一番に聞くんだろ……。
「……って……情報早いな。どこから聞いたの?」
「今日、昼休み、噂になってた」
「昨日の放課後なのに……皆ひまだな」
はー、とため息。
「なんで、別れたの?」
「……なんでって……気持ちのすれ違い、かな……」
「彰が、ふったの?」
「んー……そうだけど……麻友も、そうしたそうだったから……」
「――――」
「え――――じ……」
腕を掴まれて、ぐい、と引かれて、不意にキスされた。
「……っ」
後頭部を右手で押さえつけられて。深く、キスされる。
「……っだか、らじん……っ…」
制止しようとする言葉も、激しいキスに、奪われる。
「彰、好きだ」
「っ」
だめだ。
だめだって、分かってるのに。
やっぱり、突飛ばすとか。
できない。
弟が可愛い、じゃダメだ、という 寛人の言葉が脳裏に浮かぶけど。
もうどうしたらいいか、分からない。
「……彰が、誰とも付き合ってないの嬉しい」
頬に触れた手のせいで、顔が動かせなくて、ただ、目の前の瞳を見つめ返す。
「オレの事は……ふらないの?」
「――――オレ、最初から応えられないって……言ってるだろ」
「……でも、ずっと優しいじゃん」
「当たり前……弟なんだから」
「――――っ」
仁は一瞬、すごく悔しそうな顔をした。
また、キス、される。
悩んで、別れを告げたけど。
仁に、そこをすぐに突っ込まれるなんて。最悪……。
オレが誰とも付き合ってないのが、嬉しいって。
……バカだな、仁。
「仁、ストップ……」
顔を、逸らして、唇を解く。
「仁……オレが、前言った事、考えた?」
「……なに?」
「もう一回、よく考えてって」
「……考えてるよ、毎日」
「そっか」
考えてるけど。
まだキス、してくるのか……。
何だかもう頭が、うまく働かない。
それ以上何も、言う事が見つからなくて。
オレは、仁から少し離れようとしたのだけれど。
腕を掴まれて、止められた。
「……彰、ごめん。 嬉しいとかオレ言っちゃったけど……別れて、落ち込んでる?」
「――――……」
「……元気ない」
じ、と見つめられて。
何ともいえない感覚。
「……大丈夫、だよ」
「……ほんとに?」
「うん」
ぐい、と引き寄せられて、抱き締められた。
「仁……」
ゆっくり、離させて。
は、と息を吐いた。
「オレにこんな事して……楽しい?」
「……楽しくない、よ。なんか、焦れるだけ」
時たま。弟じゃなくて。
完全に、男の顔に見える時がある。
オレの、よく知ってる、仁じゃなくて。
焦る。
焦っている間に、頬に触れられて、唇が重なってくる。
最初のキスの時はなんか、あんまりに一生懸命で。
そのキスの意味を考えて…どうしようと思っている間に、どんどんキスが深くなっていって。
とにかく、拒めなかったけど。
それでも、少し余裕があった。
どうせすぐ飽きる。
どうせすぐ、こんなのおかしいって、気づく。
そう、思っていたのに。
最初に拒まなかったキスを、どう拒めばいいのか。
そもそも、嫌だと、思っているのか。自分の事が分からない。
……寛人に言ったら、怒られるだろうな……。
受け入れられないなら、拒めって。
寛人に言われなくたってダメだって、分かってるのに。
仁が、自分から、やっぱり違うって言ってくれるのが一番いいんだけど。この調子じゃ無理なのかな……。
その時。
「ただいまー!」
玄関から和己の声が、聞こえる。びく!と震えて。名残惜しそうに、仁が手を離さないので、「バカ、離せって」と言って藻掻く。
すると。
「――――……っ」
後頭部を押さえつけられて。
無理無理、キス。
「……んっ」
ばか仁……!!
とんとんと、和己が階段を上ってくる音がする。ふりほどこうと、顔をそむけようとしても、仁が、しつこく舌を絡ませてくる。
がちゃ。ドアが開いた瞬間。
オレが仁の頭を、思い切りどついた所だった。
「……っいっ、てぇ……」
「るさいおかえり、和己。早かったな?」
「約束してた友達、来ないんだもん。あき兄が帰ってきてたし、宿題教えてもらおうと思って帰ってきちゃった。今日のちょっと難しいんだ」
「ん、いいよ」
「……ね、何で今、仁兄は叩かれてたの? あき兄が叩くなんて、見たことない。何したの、仁兄」
「……別に。コーヒーいれてくる。 彰、 飲む?」
「……飲む」
「オレも飲む!」
「……和己はココアな」
くすっと笑って、仁が部屋を出ていく。
「……ねー、仁兄はなんで 彰って呼ぶの?」
「……さあ? わかんないなー……」
「……オレも彰って呼んだ方がいいの??」
無邪気な笑顔と質問に、くすっと笑ってしまう。
「仁がそう呼ぶのも、しばらく飽きるまでだろうから。和己は、今のまま呼んで?」
「えー、そうなのー?」
「うん。そうだよ」
「……ん、分かった。ねね、あき兄、これなんだけどさー」
言いながら、算数のドリルを持って、見せに来る。
可愛いなあ、和己。
……少し前までは、仁も可愛かったんだけどな……。
あきら、て呼んだ日から。
ずっと、好きって……。
もう、意味わかんないし。
何回も何回も、好きだって。
もう流してるのも、きついな。
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