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第2章

◇旅行*圭

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 「……きもちよすぎる……」



 ――――……なんでオレが。
 今、箱根の温泉に、浸かっているかと言うと。


 今朝、高瀬に起こされて、「織田元気?」と聞かれて、ねぼけたまま「うん」と答えたら。用意されてたご飯を食べさせられ、着替えさせられ、車に乗せられて、あれよあれよという間に、連れてこられた、から。


「……高瀬、ここ、何? 気持ちよすぎるー……」

 ぼーーー、としながらそう言うと、高瀬はぷっと笑った。


「――……オレがたまに来るの、この旅館」
「そうなんだ……」

「良いだろ?」
「……うん。すっごく良い」

 旅館の雰囲気も、案内係の接客も、さっき食べたお昼ご飯も。
 で、今浸かってるお風呂も。

「今までで一番いいかも……」

「良かった。オレが大学生の時に初めて来てから、ちょくちょく来てるんだ。結構融通が利いて、時間合わせてくれるし」

「――――……そうなんだ……何で今日連れてきてくれたの?」

「オレが結構好きなとこだからさ。休みにたまに来るから……お前が気に入ったら、これからは織田と来ようと思って」

 ぱ、と顔をあげて、高瀬を見つめる。

「超、気に入った!」

 言ったら、高瀬は、ふ、と嬉しそうに笑った。

 どき。
 ――――……ああ、なんか。
 濡れた髪が、カッコイイ。

 色っぽいなあ。


「なんとなくさ。今日は混んだとこ行くより、静かに織田と居たくて」
「――――……」

 確かに。
 ここ来る前に寄ってきた水族館、少しは人も居たけど、人気が無い方に進めば、ほぼ2人きりみたいな感じで。

 すごいゆっくり回れて、楽しかった。

 アザラシ可愛かったなー……。


「高瀬、1人の時も水族館いくの?」

 言いながら、あ、そんな訳ないか、と思ったけど。
 案の定、ぴた、と固まられ、超苦笑いをされてしまった。

「んな訳ない」
「……ですよね」

 思わず敬語で答えると、高瀬はクスクス笑う。

「嫌いじゃねーけど、1人じゃ行かない。織田は好きそーだなーと思って」
「うん。好き。久しぶりに行った」

 そっか、オレの為に連れてってくれたんだ。
 高瀬が買ってくれた、アザラシのキーホルダーが超可愛かった。

「久しぶりだった?」
「うん。最後に行ったのは…… 去年の冬、かなあ」

 言いながら、あ。前の彼女だ、と思って、曖昧に答えた。
「ふうん……」とだけ答えて、高瀬はそれ以上は聞いてこなかった。


「……なんか、不思議。昨日の夕方まで働いてて、結構遅く寝たのにさー。
 午前は箱根の水族館に居て、こんな時間に温泉入ってるって」
「……楽しい?」

「うん。めちゃくちゃ楽しい。お風呂、誰も居ないってすごい」
「……ん」

「――――……!」

 ちゅ。
 急に、キスされて。 高瀬を見上げる。

「……誰も居ないとか言うから。 してほしいのかなーと思って」

 ニヤと笑われて。
 色っぽさに、どきん、と胸が弾む。

「……そんな、つもりで……言ってないよ」
「――――……もともと赤くなってんのに、もっと赤くなった」

 クスクス笑って、すり、と頬を撫でられる。

「……部屋戻ろうか。続きする?」
「……っ」

「いつもと違うとこで、明るい部屋で、織田に触るのもいいなあー……」

 ふ、と目を細められる。

「……っ……」

 かああああああっ。
 真っ赤になってると、高瀬がますます優しく笑う。

 
「でもな……行きたいとこあるから、やっぱり、夜まで我慢しようかな……」
「――――……っっ」

 手が耳に触れてから、すり、と首筋をなぞっていく。
 ぞく、として、首を竦める。


「――――……っやめ…… 触んないで……」
「ん?」

「……っ……反応しちゃう、だろっ」
「……いーよ、して」

「っ……どうやってここ出るんだよっもうっ」

 ぷ、と笑って、高瀬の手がオレの髪に触れる。


「もう、さわんの禁止にするからっ……」

 ぎゅ、と目をつむって、体を退くと。
 高瀬は、「へえ」と、ますます面白そうに笑った。


「――――……禁止でも、触るけど……?」
「――――……っ」

 その時、ドアが開いて、おじさんたちが3人現れた。急に騒がしくなって雰囲気が変わって、ほっとする。

 反応してしまいそうだった体も、急に落ち着いた。
 ……ああよかった。

 高瀬が、隣でクスクス笑ってるけど。
 ……何にも言わず、お風呂を出る事にした。


「温泉の後って、浴衣着てのんびりしたくなっちゃうの何でだろー」
「……オレも、浴衣着た織田に触りたいけど……」

 こそ、と囁かれて、目を見開く。

「……もう……っ……たかせっ!!」
 
「はは、真っ赤……――――……まあ、それは後にする。とりあえず、洋服着て。外行くから」


 ぽんぽん、と頭を撫でられて。
 むー、と口を噤んだまま、服を着た。



 もうもうもう。
 エロいんだもん。誘い方が。触り方が。

 ほんとにもう。


 

 ――――……大好きだけど。
 ああ、もう顔、あっつ。







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