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第2章

◇浮かれる*拓哉

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「なー、高瀬、あのさ」
「ん?」

「お昼、外行こう?」
 織田が、じっと見つめてくる。

「ん。いーよ、行こ」
「うん」

 嬉しそうに笑ってる織田の頭にぽん、と手を置いて、くしゃくしゃ撫でる。
 いま、精一杯の、接触。

 ……ダメだなー、これ。

 今まで付き合ってきた奴に、触れたいとか、キスしたいとかをひたすら我慢、なんて。……した事ない。

 そこまで、我慢するほどに、触れたいと思う事が、まず無かった。


 ――――……何でオレ、こんなに織田に触りたいんだろ。


「……高瀬、これでいい?」
「ん」

 今組んだスケジュールをパソコンで入力しながら、くる、と振り返ってくる。パソコンの画面をのぞき込んで、確認しながら。すぐ隣に居る織田に、気持ちがふわ、と浮かぶ気がする。

 ふわふわした髪の毛が、すぐ隣にある。

 ――――…… 可愛いなー……。頭、撫でたい。



「じゃこれで印刷してい――――……」

 言いながら、くる、と振り返った織田が、オレと、至近距離で目が合うと、言葉も途中で止まり、動きも完全に止まった。


「……っ……印刷……す、るからね」
「ああ、頼む」


 息も絶え絶えな感じの織田に、苦笑い。

 ――――……心臓がやけに弾んでるのは、こっちも同じなのだけれど。
 織田みたいに、表面には出ないみたいで、ほんと良かった。

 印刷した紙を取りにプリンターへ歩いていった織田を見送っていると。
 織田がスマホを取り出して、ささ、と操作している。

 瞬間、オレのポケットのスマホが震えた。


「――――……」


 織田かな?と思って、スマホを開くと、案の定。


『高瀬、ちょっと、離れてくんないと、オレの態度で、速攻周りに、バレるからね!(+_+)! もうすこし、離れてください』


 そんなメッセージ。
 最後が敬語なのが面白い。


 ぷ、と笑って、織田の方を見ると、織田は遠くからじっ、と見てくる。
 頷いて見せると、ほっとしたように、笑ってる。

 ――――……なんか、離れるっていった事に、そんなに喜ばれると、
 ちょっと納得いかない。


 オレも、スマホをいじって、メッセージ送信。


『会社で離れるから、その分、別のとこでは、離れないから』


 それを確認した織田はぴた、と固まって。
 そのあと、遠くから、きっ!と目を剥いてくる。

 ここからはちょっと見えないけれど、また赤くなってる、かな。

 クス、と笑ってしまいながら。


 さて。とりあえず昼までまじめに仕事するか。
 なんて、パソコンに向かいつつ。


 昼、どこ行こうかなー、なんて、早くも浮かれてる自分に気付き。


 印刷したスケジュールを持って戻ってきた織田に、もー高瀬―、と睨まれても。



 ……口元が緩むのを押さえるのが、なかなか大変だった。




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