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第2章
◇一緒に出社*圭
しおりを挟む2人で並んで、高瀬のマンションから会社への道を歩く。
「2人で会社行くの初めてじゃないけど……」
「うん?」
「……付き合ってるって思うと、なんか嬉しいよな?」
見上げた先で、高瀬が本当に嬉しそうに笑う。
「……っ……」
……っ……高瀬って……。ずっと思ってたけど。
そういうの言うのに、照れるとか、そういうの、無いのかな。
好きとか、可愛いとか、その他も色々、なんか、言いすぎなんだけど。
見つめられるだけでもきついのに、なんかもう……。
「2人で朝一緒って、向かう先が職場でも、何か良いよな」
ふ、と斜めに見つめられて、顔が赤くなるのが分かる。
あ。も、駄目だ。
「――――…… 何でそんな、赤くなんの?」
おかしそうに笑って、目を細めて、見つめてくる。
そんな姿が、また一層カッコ良くて。
もう、なんか、本当に、心の中は、ほぼパニック状態。
なんとかかんとか 落ち着こうとしてみる。
……だけど。
「そのネクタイ、織田、似合う」
「ん?……あ、ほんと?」
貸してもらった、高瀬のネクタイ。
「ん。織田が付けてると、可愛い」
「――――……っ」
さっき、やってやる、と言って、ネクタイを締めてくれた時。
最後に、キスされたのを、不意に思い出してしまった。
落ち着こうとしてるのなんか、簡単に吹き飛ばされて。
もうなんか、高瀬はわざとオレをからかって遊んでるのかなと思う位。
ちょっとそういう、からかって楽しむ、みたいな所があるのは知ってるのだけれど。
ほんとに、オレ、もたないんですけど……。
何とか会社に辿り着いて、周りに挨拶をしながら進んでいくと、太一先輩が既に来ていた。
「おはようございます」
2人で揃って声を掛ける。
「おはよ」
返事をしてから、先輩は、隣に座ったオレに、にやっと笑って、こっそりと。
「仲直り、したんだな?」
「……はい。――――……ありがとうございました」
言うと、先輩はホッとしたように、にっこり笑った。
「よかったな」
「……あ、先輩は? 彼女さん、大丈夫でした?」
そう言った瞬間、にっこり笑顔が消え去って、オレは「え」と固まる。
「……もー大変。 かなり待たせたから、すっげー怒ってて」
「そ……それで……??」
「……寿司屋連れてかれてさ、何が大変って、その値段が大変で」
「……あ、何だ。 仲直りしたって事ですね。びっくりした……」
クスクス笑いながらオレが「良かった良かった」と言うと、先輩は目を剥いた。
「ていうかな、お前な簡単に言うけど、すっげー高くついたんだからな。しかも、待たされて腹減ったとか言って、超食いまくるし、ほんと勘弁してくれよって感じ……。」
言いながら、はあ、とため息を付いている。
そんな先輩に笑いながら。逆隣の高瀬に目を向ける。
机の上のパソコンの電源を入れて。
高瀬はふ、とオレに気付いて、視線を返した。
「ん?」
ふ、と笑って、首を傾げる。
「……なんでもない」
ぶるぶる、と首を振って、自分もパソコンの電源を入れた。
あぁなんか――――……。
これじゃ、恋する乙女も真っ青な感じなのでは……。
ちょっと笑顔向けられた位で、ドキドキするなんて。
ほんとに、オレ、ありえない……。
……何かほんと、どうしよう。
どんな可愛い女の子と付き合ってた時だって、こんなにドキドキしてないし。ましてや赤くなるなんて事、なかったのに。
……なんだろ?
オレは、男が相手だと、女の子みたくなるのか??
……なんか、やだな……。
こんな、普段から、こんな赤くなってたり、ドキドキしてたら。
本当に、大変すぎて。もう、意味わかんないし。
今までも、密かにドキドキはしてたけど……。
――――……こんな風になってから、高瀬から飛んでくる視線とか笑顔とか言葉が強烈すぎて。全然違う。
……ていうか、そもそも。
こんなに誰かの事が気になって気になって。
際限ない位、好き、なんて今まで無かったんじゃ……。
大抵可愛いから、とか、キレイな子だから、とか、
告白されたからとりあえず、とか。
そんなんで、色んな女の子と、付き合ってきたけど――――……。
「――――……」
……あれ??
もしかして、オレ。
本当に、ここまで、人、好きになるのって。
もしかして、初めて……??
そんな、あんまりな事柄に気付いた瞬間。
「……織田?」
高瀬の声がして、びくびくん!と体が震えた。
振り返ると、高瀬が後ろに立っていた。
「な、なななななに?」
「なにって――――……」
言った後、高瀬がプッと吹きだして、そのまま口元を手で覆って、背を向けた。けど、その背中が、クックッと揺れているので、笑っている事は嫌でも分かった。
「はー…… ほんと……笑わせないでくれる?」
まだ背中を向けたまま、高瀬が額に手を当てて、ふー、と息をついてる。
「……つか、そんな笑わなくてもいいじゃんか」
「な事言ったって…… 面白すぎ……」
やっと振り返った高瀬は、涙ぐんでいて。
そんな泣くほど笑わなくてもいいのではないだろうか。
と。照れ隠しもあって、ちょっとムッとして見せてしまう。
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