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第2章
◇出社*圭
しおりを挟む全然落ち着けないまま、土日が終わった。
まだ会える気がしない、行きたくないと、すごくすごく思いながらも、足は仕方なく会社に向かう。
いつもよりも大分早く来たので、まだ会社にほとんど人は居なかった。
高瀬もまだ来てない。
ほっとしながら、コーヒーでも飲もうかと、コーヒーサーバーのある休憩室へ向かう。
いつもなら休憩室は、喫煙する人や小休憩をとってる人達で結構にぎやかなのだが、流石に朝のこの時間は、まだ誰も居なかった。
「はー……」
紙コップを手にとって、思わずため息を付いた瞬間。
「あ、織田」
「っ」
びくびくん!!
背後から掛かった声に、自分でもびっくりする位、全身が震えた。
「……すっげえ反応」
クックッ、と笑ってる男を振り返ると。
声を間違えるはずもなく、高瀬で。
可笑しそうに笑ってる、その顔が、またいつも通り、めちゃくちゃカッコいい。んだけど。
……そんな事言ってる場合じゃないんのに。
ああ、オレのバカ……。
「……早いね、高瀬」
「なんとなく。織田が早く来るかなと思って。鞄あったからここかなと思ったから来てみた」
「――――……」
……オレの為に早く来てくれて。オレの事探してくれたんだ。
……なんか……やっぱり、嬉しい。
「なあ、織田」
隣に立った高瀬に、じっと見つめられて。
「……体、平気?」
囁かれて、カッと顔に血が集まった。
「――――……オレ、これはマジメに聞いてんだけど」
「……っ」
「平気?」
「……も……平気」
ぼそぼそ、と言うと、「ん」と頷いて、ぽん、と頭を撫でられる。
あまりに優しいそれに――――……固まるしか、できない。
その時。
「あ、高瀬、もう来てる。織田もおはよ」
言いながら、高瀬の指導者の相田 渡が近づいてきた。
「おはようございます」
2人で挨拶すると、渡が少し申し訳なさそうに話し出した。
「高瀬、朝から悪い、先週頼んだやつ、ちょっと見せてくれるか? 朝一報告しなきゃいけなくなって」
「今ですか?」
「出来たら今」
「……了解です。少しだけ先行ってもらえますか? すぐ行きます」
「ん、頼むなー」
渡が居なくなると、また2人きり。
「織田、オレもコーヒー飲みたい。 机、持ってきてくれる?」
「……」
コクコク。
小刻みに妙な動作で頷くと、高瀬はぷ、と笑って。
また後で話そうな、と言い残して去っていった。
「~~~~……っ」
大混乱状態の自分の中をどうにか落ち着かせようと試みながら、とりあえず高瀬の分の紙コップも手に取る。
けれど、すぐに机に戻る気にはなれず。
何も入っていない紙コップをふたつ握りしめたまま、椅子に腰掛けた。
「――――……」
5分。……10分。
――――……さすがに、もうそろそろ行かないとマズイかな……。
少しずつ、人が増えてきた。
紙コップ2つ握りしめているのも、おかしいし。
……仕方ない……。
時間が経ってもまったく落ち着いてくれない精神状態に、自分でも呆れながら、オレは立ち上がった。
ふたつのコーヒーとともに机に戻る。
――――……高瀬の机は、オレの机の、左隣。
向こう側を向いて渡と話している、背中が見えるだけで、ドキ、と心臓が音を立てる。
……まじで。
オレの心臓、やばい。
とにかく完全に、働きすぎてる気がする……。
「高瀬、コーヒー、置くね」
渡との話を邪魔しないように小さめに言って、コーヒーを置くと。
「ありがと、織田」
気付いて振り返った高瀬が、ふ、と笑ってオレを見上げた。
うん、と頷くと、また高瀬は渡の方を向いて、続きを話し始める。
……うぅ。
カッコイイ。 見上げられるって、あんまり、無いし。
いつもは、高瀬は、上からオレを見下ろしてるから……。
「――――……」
その時、不意に。
――――……よりによって、自分の上で、キモチ良さそうにしてた高瀬を思い出してしまって。
カッと血が頭に上って。
顔を背けた。
やばい。
――――……なんかノボせて……鼻血でそう……。
椅子に座る動作までが不自然にカクカクしているのが自分でも分かる。
けれど、どうにも出来ずにとりあえず座ってしまおうと頑張っていると、ちょうど今出社してきた、右隣の先輩が、笑いながら話しかけてきた。
「ちょっと待て――――……お前、動き、かなり不自然。 どした? 朝から、すげえ面白ぇんだけど」
おかしそうに笑ってる、神木太一先輩。
思わず、恨めしげに振り返ってしまう。
「……何でもないです」
「何でもないって事はないだろ、そんだけ不自然な動きしてからに」
「……そんなに不自然でしたか?」
「うん。オレ、そんな不自然な動きする奴、人生で初めて見た」
そう言って、太一はクスクス笑いながら、パソコンの電源を入れた。
「ほんと大丈夫?」
「――――……はい……」
そんなにか……。
はー。
頭の中で、考えてた事なんて、絶対絶対、言えない。
頭の中が一番、不自然すぎる……。
ひっそりと、深いため息をついてしまう。
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