30 / 236
第1章
◇夏って*拓哉 4
しおりを挟む午前中は2人で家で映画を見た。昼を食べに駅まで出てきて、食べ終えて外に出た時。織田があるポスターに目を留めた。
「なー、高瀬」
「ん?」
「これ、行こー?」
「祭り?」
「うん。この近くの神社のお祭りだって」
「ふうん。いいよ。行こう」
「15時から夜までだって。まだ1時間位あるけど……この神社知ってる?」
「ん、分かる。歩いて、15分位かな」
「あ。高瀬、ちょっとこっち、来て?」
「ん?」
くいくい、と腕を引かれて。
ついていくと、織田は、エレベーターの前の、館内の案内を見てる。
「どした?」
「高瀬、オレ、ちょっとだけ見たいとこがある」
楽しそうに笑う織田に、いいよ、と答える。
そんな顔で笑ってるなら、ちょっととかじゃなくて、どこでもなんでも一緒に行くけど。と心の中で思いながら。
「――――……」
それにしても、予想外の所に連れてこられた。
――――……着物屋??
この駅ビルに、入ってたんだと思う位、縁のない店だった。
と思ったら、織田は、中にとことこ入っていって、着物を来た店員さんに、こんにちわー、と話しかけた。
ほんと、すぐ話しかける。
織田らしくて、つい、くすっと笑ってしまう。
オレはむしろ、どの店に行っても1人で見たいし、話しかけないで欲しいんだけど。織田は、すぐ話し始める。ほんと感心する。
「浴衣って売ってますか?」
「ええ、ございますよ」
「いくらぐらいですか?」
「セットだと、今ですとセールになってるものなら5000円位からですね」
「あ、意外と安い。どんなのか見せてもらってもいいですか?」
浴衣、着たいのか。
――――……祭りだから?
店員について歩きながら、織田が振り返って、高瀬も来て、と嬉しそうに笑う。あんまり嬉しそうなので、笑ってしまう。
「こちらは今とってもお買い得ですよ」
何点か、並べて見せてくれる。
浴衣の値段なんて分からないけれど――――……元値1万~3万位が安くなってるから、良い物なのかな。
「たぶん今日しか着ないかなと思うので、普通に着れたらいいんですけど」
「お安くなってますけど、物はいいものなので、今日だけと言わず、ずっと着ていただけますよ? 帯も、留めるだけのものも多いですし」
クスクス笑って、店員が織田に色々見せている。
「これって、今日、着せてもらって帰れますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ちょっと話すので、また声かけてもいいですか?」
「はい」
にこ、と笑って織田が言うと、店員が少し離れていく。すぐに織田がオレを振り返って、じっと見つめてくる。
「高瀬、一緒に着よ?」
「ん? オレも?」
織田が着たいんだと思ってた。
「1人で着てもつまんないし。いっつもお世話になってるから、オレ、買うから! 着て?」
「――――……浴衣着んの初かも。似合わねーかも」
「絶対高瀬似合うから。一緒に浴衣でお祭り行こ? 超夏っぽいじゃん?」
「んー……着てみて、似合うなら。 変だったら織田だけ着て?」
「高瀬が着て変な訳ないじゃん」
なんて妙な自信ありの言葉と共に嬉しそうに笑って、織田がまた店員を呼んでる。
「買うなら自分で買うから」
クスクス笑いながらオレがそう言うと。
「え、いいよ。いっつもご飯とかごちそうになってるし。払う払う」
「んー……」
「あと、高瀬と着たいって、オレの我儘だから、払わせて」
「――――……値段次第で。揃えた時、高かったら払うから」
「んー」
そこまで話してる間に店員がまた嬉しそうに近づいてきた。
もう買うんだろうなと、バレてるに違いない。
だって、織田、めちゃくちゃ嬉しそうだし。
100
お気に入りに追加
1,501
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる