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第1章

◇花見*拓哉

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 最初行くのをやめようと思っていた花見。
 織田が、「高瀬が行くなら」と言うので、参加を決めて。

 一緒に課題を終えて出発して、一緒に着いたから、当然隣に座った。

 織田と酒飲むの、初めて。
 ちょっと顔が赤くなる程度かな。まだ、2本目だからそんなもんか。


「……超キレイ」

 そんな声が聞こえて織田に目をやると、ぼんやりと桜を見上げている。桜に癒されに行く、とか言ってたから、桜が好きなんだろうなと、思ったが。

 少し赤くなって、ほんわかと桜を見上げてる織田に。
 ふっとぎる気持ち。


 ――――……可愛い。とか。
 ……何で、思うんだか。


 ――――……大体にして、素直すぎ。


 多分入社式で、一目惚れ?……多分、された。
 もうそうとしか、思えない表情と視線だった。

 その時、オレにとっては、面白い奴。ちょっと可愛い、小動物みたいな、という印象。

 かっこいーすごーい、てな視線と。
 少し見つめるとものすごく動揺するし。


 入社式の翌日からの、新入社員研修。同じグループになって。
 もう、ひたすら懐かれてる。

 高瀬すごい、さすが高瀬、高瀬助けて、いややっぱ自分でやる、でもやっぱり助けて。ありがとう高瀬。

 ここらへんの言葉、この数日で、一体どれだけ聞いてるか。
 
 
 どうしてもダメな時だけ助けを求めてくる。
 丁寧に説明してやると、わりとすぐ理解して、そこからは自力で頑張ろうとしてる。

 これが全部頼られて、全部教えて、だったら、面倒臭かっただろうけど。
 ……織田のは、可愛い。

 頑張って、一生懸命だから、頼られた時は、助けてあげたくなる。


 オレの自己評価と、昔から仲の良い奴からの評価は、多分、一致してる。

「クール」「面倒くさがり」「淡泊」「冷静」

 多分最初に出てくるのはきっと、こんなとこ。基本、冷めてる。あんまり熱くなったりしないし、動揺も、しない。
 「優しい」とかを最初に言う奴は居ないと思う。

 なのに、織田は、「高瀬優しい~」「なんでそんな良い奴なの」と、事あるごとに言ってくる。
 何言ってんだろ、と思うけれど。

 ……織田から見たオレは、もしかしたら、そうなのかもしれない。

 何でか構いたくなって、何でか優しくしてしまう。
 織田を見てると、自然と、笑顔になってしまう気がする。

 一目惚れされて、懐かれるとか。
 しかも、男に。

 普通に考えたら、嫌悪以外の何の感情も沸かないんじゃないかと思うのに。
 何故か。

 全然真逆の気持ちしか沸かない。


「高瀬、今週、いっぱいありがと」
「ん?」

「なんかいっぱい、助けてもらった気がするから」
「……んな事ないよ。それ、オレのセリフ」


 織田が居るおかげで、すげえかったるかった研修が、ひたすら楽しいし。
 ――――……もともとは、研修内容が基礎からで、知ってる事が多い事もあって、1カ月もの集合研修なんて物凄くだるいと思ってたのに……。

 そんな風に思って織田に言ったセリフは、織田にとったらすごく意外だったみたいで。 へ??とものすごく不思議そうな顔で、オレを見上げてくる。

「オレ、高瀬、助けてないよ?」

 そんな風に言って不思議そうなのが――――…… 可愛いとか。
 
「助けられてるから」
「……なにも思い当たらないんだけど」

「いーのいーの。 お前が同じグループでほんと良かったよ」

 そう言うと、織田は、まだ少し不思議そうにしながらも、嬉しそうに笑顔になる。

 こういうとこ。だよな。
 人の好意、めちゃくちゃ素直に受け取る、というか。

 嬉しそうに笑うとこ、とか。


 そんな話をしていたら、織田は後ろの男連中に呼ばれ、オレは女子に囲まれた。 しばらく、そのまま、それぞれを相手しながら、時を過ごす。

 冷やかしでついてきたっぽい子は置いといて。
 彼女が居るのかとか、好きな子のタイプとか。多分本気で聞かれてる。

 適当に流しながら答える。
 ――――……まあ同期の女子と初っ端からそんな関係なんてありえないっていうのもあるけど。それだけじゃなくて、何だか、今、全く興味を持てなくて。
 思わず、好きな子は居るんだ、と一線を引いてしまった。

 
 一通り色んな奴と話し終えて、2時間位経過。
 オレに背を向けた形で周りと話して笑っている織田に呼びかけた。
 振り返った織田に、一緒に帰るか残るか聞くと、即決で一緒に帰ると言った。

 楽しそうに話していたから置いて帰っても良かったのだけれど。
 でも、一緒に帰るとすぐ言った織田に、何だか嬉しい気がした。
 
 すぐに立ち上がった織田と一緒に、皆に別れを告げて、桜の下を歩き出した。

 織田と、モテるとかそんな話になった時。
 学生時代は彼女が居ない時が無かったと、織田が何気なく口にした。

 ふーん、と思ったのは。
 「彼女」なんだな、と言う事。

 てことは、もともと男が対象な訳じゃないんだな、と。
 まあでも、そんな感じはしてた。

 女に普通に人気ありそうだもんな。
 可愛い顔してるし。いや、女から見たら普通にカッコいい方だろうし。明るいし、人懐こいし、モテそう。


 ――――……でも。
 ちょっと見つめると、狼狽えるし、顔赤くなるし。


 なんなんだろ、この反応。
 ……すげー可愛く見えるんだけど。


「高瀬、土日は何してんの?」
「今週末は土曜だけ飲みに行く位」
「じゃゆっくりしてるんだね」
「最初の週もっと疲れるかと思ったから」

「え、疲れてないの?」
「ああ、思ったほどじゃなかった」

 というか、織田が居たから、精神的に楽しくて、疲れなかった。
 としか、思えないけど。

 そんな事をオレが思っているとは知らず。

「え゛え゛ー。オレ、めっちゃ疲れてるけど。 主に頭……」

 使いすぎた、と言いながらも、楽しそうに笑ってる。


「あのさ――――……もしさ、高瀬が良かったらさ」
「ん?」

「今度、週末遊んだりもしない?」
「――――……」

「っあ、同期で、ね?」

 オレがとっさに返事をしなかったら、織田は慌てたように付け加えてきた。
 

「いいよ」
「あ、ほんとに?」

 嬉しそうに笑う織田に。


「織田と2人でも、いいよ?」
「え。……ほんとに?」

「織田が同期と皆でって言うならそれでも良いし」

 何て答えるかなと思って、そう言ってみると。

「うん。もちろん、皆でもいいし――――…… 高瀬が良いなら、2人でも遊びたい」


 はは。
 ――――……超、素直。


「いいよ。何して遊びたいンだ?」

 
 嬉しそうに笑う織田に、ふと、頬が緩む。

 なんかな……。
 やっぱり、織田の笑った顔に、すげー弱いのかも、オレ……。


 ライトアップされた桜は、とても美しくて。
 不思議な位、綺麗で。


 まだまだずっと、この道が続けばいいのに、なんて。
 柄にもない事を、思った。


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