私を 癒してくれたのは 泥棒模様の 柴犬ちゃんでした

悠里

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「両親、犬好きだった」

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「ただいまー」

 家に帰ると、お母さんが出迎えてくれた。

「あ、おかえり。また恵ちゃんとこ行ってきたの?」
「うん。可愛くて」
「お母さんも見てきたよ。可愛いねぇ。花音が好きなのは、口の周りが黒い子なんでしょ」
「うん。そう」
「今日、おっぱい飲みはぐれて、もぞもぞしてた」

 お母さんの言葉に、それ、すごく可愛いよね、と笑いながら、お風呂に向かった。
 またおっぱい飲めなかったんだ。ふふ。かわいいな。なんて、顔が綻んでしまいながら、シャワーを済ませてリビングに戻ると、お父さんとお母さんがテーブルで話していた。

 スマホを見て、クスクス笑っている二人に、「何?」と聞きながら水を飲んでいると。

「恵ちゃんちのわんこたちの動画」

 お母さんがそう言って、お父さんに説明しながら見せている。お父さんも、「ぬいぐるみみたいだな」なんて言って笑ってる。

「花音、もしかして、飼いたいの?」
「……うーん……」

 即答は出来なくて、考えながら、ソファに腰かける。

「……可愛すぎて、もし飼うとしたら、って、色々調べたりはしてみた。一緒に生きたいなぁ、とも、思うんだけど」

 そう言うと、二人は、へー、と面白そうな顔をして顔を見合わせている。

「花音から、犬が飼いたいってセリフが出るなんてねー」
「一生言わないと思ってたな」

「私もそう思ってた。犬、怖かったから」

 笑う二人に、んー、と少し考える。

「飼いたい気はするけど……恵ちゃんにも、犬が十五年生きると考えて、みたいに言われてね。その頃四十とかだし、わんこと私、どう生きてるのかなあとか。……なんか、絶対飼う! って、言えなくて」

 そっか、と二人が顔を見合わせる。

「花音が一人で飼うのは、無理なんじゃない? 仕事もあるし」
「うん。だよね……。一人暮らしも、いつか……結婚とかも、分かんないしね……」

 可愛くて、支えたくて、支えになってほしくて、一緒に生きたいけど。難しいなぁ。
 最近堂々巡りで考えていることを、またぼんやりと考えていると。

 少しして、お母さんが。

「花音、うちで飼ってもいいよ」

 ん? ……うちで、飼ってもいいよ……???? 


「え?」
 二人を見つめると、二人はクスクス笑い出した。お母さんが、一度お父さんを見てから、私を見つめる。


「犬が大嫌いだった花音が、飼いたいって思うくらい、その子が可愛いんでしょ? お父さんもお母さんも、犬が好きなのよー。飼いたかったけど、花音が嫌いだから我慢してたの。皆で飼うってことにして……でもお母さんたちが先に死んだら、そこは、どうあっても、花音が責任とらないとだし」
「――――」

 私は考えながら、小さく、頷く。

「皆が元気だとしても、もし花音が、何かで家を出ていかないといけないなら、花音のその時の状況もだし……花音についていくかどうかは、その子に決めさせればいいのかなって。犬って、飼い主の家族のランクを付けるって言うし」
「どんなになっても、最後まで誰かが面倒見てあげないと、だから。ちゃんと考えて」

 お母さんと、お父さんの言葉に、ただ、何度もうなずく。

「それで考えても、飼おうって決めるなら。いいよ」
「――――…ほんとに……いいの?」

 なんだかすごくドキドキしながら、聞くと、二人は、ふ、と笑った。

「父さんは、子供の頃、犬、飼ってたから」
「お母さんは、飼ってみたかった。一軒家にきた時、犬飼いたいなーって思ってたんだけど、花音がねー」

 あはは、と二人が笑う。

「……ありがとう。ちょっと……もう一度、考えてみる」
「うん。花音が飼わないって決めても、お母さんが飼っちゃうかも……」
「えっ、そうなの??」

「だって、可愛いじゃない、この子。ね、お父さん」
「うん。可愛いな」

 二人はまたスマホを見て、クスクス笑ってる。
 お父さんが私を見て、ふ、と笑った。

「花音は、あんまり我儘、言わなかったからなあ……。二十四
 二人はそんなことをいいながら、楽しそう。


「……なんか、すごく、ありがとう……」


 なんか二人の子で良かった、と。
 成人越えて大分たってるのに、改めて思ったりしてしまった。




◇ ◇ ◇ ◇




「……っていうことがね、あって。もしかしたら私、犬を飼うかもしれないんです」

 今日は先輩とお昼。清水さんのお店にやってきた。
 注文をしてすぐ、昨日のことを話していると。

「そうなんだ。犬、いいなあ。写真ある?」
「あります! 見てください、先輩」

 スマホを取り出して、先輩に見せる。

「うわー、泥棒ちゃんじゃん!!」
「そうなんですー! 可愛いんですー」
「めっちゃ好みー。可愛い……」
「私の大の犬嫌いを吹き飛ばしてくれた子ですー」
「うん。可愛い」

 クスクス笑い合っていると、「いらっしゃいませ」と、清水さんが料理を持ってきてくれた。

「あ。清水さん、こんにちは。こないだはありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」

 言いながら、清水さんが料理を並べてくれる。

「ありがとうございます」

 私たちが言うと、清水さんは「眼鏡、結構慣れてきて。気に入ってます」と、微笑む。

「良かったです」
 笑い返すと、清水さんが私を見つめた。

「あの、水野さん。少し話したいことがあって。今日何時までですか?」
「え。あ、十九時までですけど……」
「少しお時間頂けますか?」

 えと……と先輩を見ると、先輩は、うんうん頷いている。

「あ、はい……」

 頷くと、清水さんがにっこり笑う。

「ありがとうございます。一階の喫茶店にいますね」
「あ、はい」

 頷くと、清水さんはいつものように軽く会釈して離れていった。

「……何でしょう。話って」

 先輩は、んー、と考えて、私を見つめる。

「告白かな?」
「え」
「まあ、何にせよ、ちゃんと聞いてからだね。良い人だと思うし」

 告白って……いやいや、そんなこと考えて、違ってたら恥ずかしいし。

「違ったら恥ずかしいので、聞いてから考えます」

「うんうん。それでいいと思う。いただきまーす」
「いただきます」


 とは言ったものの。その日一日、なんだろ? って、仕事中、手が空くたび、気になってしまう私は、ほんとなんだかなあと思う。



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