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「つぶらな瞳」
しおりを挟む「やっぱり結局は」
「……昨日、仲直りしたとこです」
「ああ。一昨日の飲み会のことで喧嘩?」
「……そうです」
「一回来ちゃえばいいのにね、うちの飲み会。全然大丈夫って分かるのにねー」
あはは、と先輩は笑うけど。
「そうもいかないですよねぇ……でもまあ……飲み会だけじゃないので」
「あらら。倦怠期なのかしらね? 五年目とかだっけ? 」
「倦怠期……というか……遠距離してるみたいな」
「家そんなに遠くないんでしょ」
「そうなんですけど、職場が、逆方向というか……あと、彼、結構遅くて」
先輩はちょっと肩を竦める。
「いっそ、お店異動願いだす?」
「……え。彼の職場の近くにですか?」
「あるんじゃない、店舗。まあそうはいっても、居なくなっちゃったら困るけど」
「店舗はあるかもですけど……それは嫌です」
「何で?」
何でって。
……なんでかな。うーん。
「そんなことで職場選んだら、ちょっと嫌がられそう、だから……?」
先輩は、呆れたように私を見て、苦笑した。
「もう会いに行っておいでよ。別れるなら別れてきてもいいんじゃない?」
「……不吉なこと、言わないでくださいよう……」
「んー、でも、頑張っても別れる運命ならそうなるし。だから、無理して引き延ばすのはやめた方がいいよ。時間の無駄」
「……先輩ー……割り切りがすごすぎます……」
「別れたくないなら、それはそれで会わないとね。恋愛なんて、会って、好きって思ってなんぼでしょ」
「…………」
なんかもう、男前すぎる……。
女子って感じの、じっとりしたものとか、一切ない先輩。店舗に居る時と話し方が違いすぎて、ギャップですごく大好きなんだけど、なかなか同じようには考えられない。
「いい人居たら、デートとかしてみるのもありだよ? ほら、彼の良いとことか、だめなとことか、気付くかもしれないし」
「……」
「まだ若いんだからさ。色々な人とさ」
「――……職場にはいないですし」
「同期は?」
「同期、仲はいいですけど……うーん。友達です」
唸りながら答えていると、先輩は、あっ、と瞳を輝かせた。
「隣のレストランの店長さんとかは? なんだっけ、名前。えっと……清水さん!」
清水さんって言うんだっけ。店長さんとしか覚えてない……。
「……何でそこに店長さんが出るんですか?」
首を傾げると、先輩が、ふふ、と笑った。
「花音のこと好きそうだから?」
「え。そんなような感じ、一切、受けてませんけど」
「それはほら、花音が鈍いから」
「……今度、眼鏡作りにくるそうですよ」
そう言えば、と、さっきの会話を思い出して、先輩に言うと。
「ほらほら! 花音と接点欲しいんじゃない?」
クスクス笑って、先輩は楽しそう。
職場以外では、花音と呼んでくれる、頼りになるお姉ちゃんみたいな先輩だけど。
「……私、今は、駿以外のこと、考えられないし」
「だからねー、そうやって、一人しか見てないと、損するから。色んな人を見て、それでも彼氏の駿くんになるならいいんじゃない?」
「でもー……」
渋ってる私に、先輩は、あっ、とまた楽しそう。
「今度、花音、二連休あるでしょ。用事あるの?」
「用事じゃなくて……シフト組んでたらたまたま二連休になったみたいで。店長に、ここ連休でいい? て聞かれたんです」
「じゃあ、そこで会いに行ってきたら? 彼氏くんの会社で出待ち。喜んでくれたら、頑張る! 嫌がられたら、諦める」
出待ち……。ていうか、嫌がられたらって、それはちょっと、悲しすぎる……。
先輩の言葉に、んー……と首を傾げてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
仕事終わり。恵ちゃんちに寄った。
今日も順調におっぱいにはぐれたあげく、二匹が終わった後に、くぴくぴ飲んでる泥棒ちゃん……究極に可愛い。(おっぱいをおててで、もみもみしながらのおまけつき)
それから、三匹、もちょもちょ動いている。
……ぬいぐるみだ。
もふもふのぬいぐるみが。
ちいちゃいおててとあんよで、ぴょこぴょこと動いている。ちいちゃなしっぽが、今日もまたぴよぴよと揺れている。
「恵ちゃん……!」
「んー?」
「もう、可愛い……!」
もうなんとも言い難い可愛さ。んー!と目をつむってから、思い切り訴えた私に、恵ちゃんが、あはは、と笑う。
「分かる。こんな可愛いもの無いって、思っちゃうよね」
「悶えるくらい、可愛い……」
あっそうだ。
「写真、撮っていい? 駿にも送りたくて」
そう言って、可愛い皆を。とくに泥棒ちゃんの顔写真をたくさん撮ってる内にふと、思いつく。
「動画でもいい?」
可愛く動いてるとこを撮りたくてそう聞くと、恵ちゃんは笑いながら、良いよと言ってくれた。
なんかこの可愛さは、動画の方が伝わるかもしれない。
あ、そういえば、可愛いのなんだと思うって聞いた質問。返事が来てないような気がする。迷って、送れてない感じかな……これ、駿に見せたいなぁ……。
動画を撮り終えたところで、恵ちゃんが、「それで?」と聞いてきた。
「それでって?」
「だからー、その、出待ち。するの?」
「うー……どうしよう……」
「出待ちするようなとこ、あるの?」
「あ。うん。駿の会社の前、大きな歩道でね、街路樹みたいなのがおっきくて、その下に、ベンチとかもあるような感じなの。分かる?」
「分かる。じゃあ、入り口の真ん前で立ってる怪しい人にはならなくて済むんだね」
「うん。そう。入り口の真ん前から少し離れた木の下に座ってれば、目立たないし」
「じゃあまあ、出来るとして。するの?」
「うーん何時かも分かんないし、同僚の人とかと出てきたらとか……」
「出てきたとこで、電話かければいいんじゃない? あ、それか、今日は会社出たとこで電話してって言っとけば」
「……なんか試すみたいで嫌なんだけど」
「でも迷ってるのは、確かめたいんでしょ? 喜んでくれるかどうか」
「……うん。急に行って、喜んでくれたら。……やっぱり嬉しい」
「なんだ。花音、まだちゃんと好きなんだね」
恵ちゃんにクスクス笑われる。
「最近愚痴ばっかりだから、もう嫌なのかと思ってた」
「……好きだよ。最近、なんかうまくいってないけど。……やっぱり、駿と別れるのとか、やだもん……」
「なんか今日、素直じゃん」
ふふ、と恵ちゃんに笑われる。
そういえば……と、考えて、目の前の三匹を見つめる。
「……なんか、この子たちが可愛すぎて、おめめがつぶらすぎて。素直がいいなあとちょっと思ったかも……」
そんな風に言うと、「まあ分かるけど。彼氏の前で素直にならないとね」と恵ちゃんが笑う。
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