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第14話◇ずっと
しおりを挟む今日は、隣町にある高校との練習試合。
朝早くから集合して、ウォーミングアップ。
2コート取れる大きな体育館なので、先輩達の試合と、1年の試合が同時で行える。てことは、1年もフルで試合に出れるって事で、朝から雅己は、超ご機嫌だった。
まあ、雅己程傍から見てもご機嫌って感じではないけど、オレも朝から何だか浮かれていた。
やっぱり、試合は楽しい。
実力が拮抗してる学校で、いつもギリギリ。
負けるにしても勝つにしても、あまり差はつかない。
だからこそ、最大限でもって皆取り組んでいた。
第2クオーターが終了、ハーフタイムで作戦タイムが終わり、残り5分は休憩となった時、息が弾んでる雅己の隣に座った。
「雅己、大丈夫か?」
言うと、ふ、とオレを見て。
「ん、平気」
少しきつそうだけど、強気な笑顔。
――――……まあそう言うとは思うたけど。
「少し力抜き? お前ずっと全力疾走しとるやろ」
「――――……抜かない」
べ、と舌を見せて、雅己が笑う。
ふ、と苦笑い。
こいつに力抜けとか、無理か。
じゃあ少し、力抜けるように、オレが動くか。
「お前は3ポイント狙えるとこに居って?」
雅己はオレを見て、しばし黙って。
「……ん、分かった」
ふ、と笑う。
「啓介」
「ん?」
「……試合、楽しーな?」
「――――……そうやな」
「早く2年になりたいなー。いっぱい試合、したい」
何だか――――……ほんと、可愛いなと。
思ってしまった。
いつでも全力で、一生懸命で。
手が、勝手に伸びて。雅己の頭をクシャクシャ、撫でていた。
「……何?」
ふ、と雅己が、笑う。
「いや。……後半、頑張ろな」
「うん。当たり前」
クスクス笑いながら、雅己が言って。
少し休んで、試合再開。
再開後、数分経った時だった。
言った通り、3ポイントを狙える所に居た雅己にパスを通して。
振り向きざま、シュートを打とうとした時。
近くで守っていた奴が、咄嗟に止めようとして、体勢を崩して、雅己にぶつかった。重なり合うみたいにして、雅己が、床にたたきつけられる。
「な――――……雅己!」
一番に駆け寄って、雅己の上に乗ってる奴を退けて、倒れてる雅己の肩に触れる。
返事がない。
意識がない。
さあっと、体中の血が引いた。
指先が、一気に冷たくなる。
「雅己!」
「啓介ちょっと下がって」
先輩達も試合を止めて、こっちに来て。
オレは、肩を抱かれて少し離された。
「大丈夫、ちょっと頭打ったんだよ」
「――――……っ」
「今動かしちゃダメだから、ちょっとじっとしてろ」
そう言われて――――……意味は分かるんだけれど。
「雅己……!」
肩を抱いてた手から離れて、雅己の横に膝をついて、呼んだ瞬間。
「――――……っ……ん」
はあ、と息を吐いて。
皆が、シンと静まり返って見守る中、雅己が、目を、ゆっくりと開けた。
「――――…………」
ホッとしすぎて。
ぺたん、と床に座り込んだオレを見て。
「けいすけ――――……うるさ……」
くす、と笑って、雅己が言う。
「アホか……もう――――……ほんま……」
びっくりした。
まわりも一気にホッとした空気で和らいだ。
「とりあえず雅己、保健室借りようか」
先輩が言う。相手のマネージャーが、案内すると言ってくれたので。
「オレ、連れて行きます」
すぐに言って、ゆっくりゆっくり動かされて先輩達に支えられた雅己を、背負う。
「オレら抜けても負けんなや」
オレが仲間にそう言って、任せろ、と言われた所で。
「負けたら、ゆるさねえからな……」
ぼんやりした声で。でも、そんな事を言ってる雅己に、皆苦笑い。
体育館を出て、案内された保健室のベッドに雅己を寝かせた。
「しばらくこのまま見てるので、戻っててもらって大丈夫です」
そう言って、相手チームのマネージャーを戻して、雅己の隣に座った。
雅己は、目を閉じていた。
「……起きとる?」
「ん。起きてる……」
「……気持ち悪いとかは、ない?」
「うん。平気そう……ぼんやり、してるだけ」
「……頭うった?」
「うん。多分、ここ、たんこぶ……」
「どこ?」
「ここ」
雅己が触ってる所に、そっと触れると。
「ああ、確かに……冷やすのあるんかな」
保健室にある小さな冷蔵庫を試しに開けると、冷却ゼリーが入っていたので、とりあえずひとつ借りた。雅己に渡すと、それを受け取って、頭にあてる。
「勝手に借りていいの……」
「洗って戻しとくし。あとで向こうのマネージャーに言うとく」
言いながら、また雅己のベッドの隣の椅子に座る。
「頭打ったんやから、ちょっとでも体調おかしかったら病院やからな……気持ち悪いとかあったら、即、やで。一緒に行くからすぐ連絡しろや」
「……ん。分かった」
「ほんまにもう……」
ため息を付きながら、なんとなく、その頭、雅己が冷やしてない部分を、よしよし、撫でると。
「……なに、撫でてんの……」
クスッと笑う雅己。
「……さっき。呼んでも目ぇ開かなかった時。死ぬかと思った」
「オレが?」
「いや、オレが」
「――――……何で啓介が死ぬの」
クスクス笑って、雅己が、瞳を開ける。
「オレ死んでも、死ぬなよなー……」
多分雅己は、冗談で言ってる。クスクス笑いながら。
「……それは分からん」
オレのこれは、少し本気。
さっき――――……ものすごい、怖かった。
「何だそれ……」
やっぱり冗談として受け取ってる。
雅己はクスクス笑いながら、オレを見つめる。
「――――……は、良かった。目、開いて」
よしよし、と撫でると。雅己は、もう何も言わず。ただ、微笑んでる。
帰り道。
「啓介、必死過ぎ」
「雅己死んだら、お前も死ぬだろ」
「雅己より青ざめてたよなー」
必死過ぎたオレを皆がめちゃくちゃからかうし。
「ていうか、なんかオレが恥ずいから、そろそろやめて」
それを聞いて、何故か雅己が照れてるし。
早く家帰りたい。
なんて思ってた。
月日が流れて♡
+++++
「そういえばオレ、一回倒れたよな、試合中」
「ん?……ああ。何、突然」
「何か急に思い出した」
「何で?」
「お前がさっきからずーっと頭撫でてるから」
「……ああ。あの時も撫でたっけ」
今は。
コトが済んで、腕の中の雅己をずっと撫でてた所。
「オレ、啓介がオレを呼ぶ声で目が覚めたんだよ。うるさかった……」
「何やそれ。人に死ぬほど心配かけといて」
「あだだ……」
ほっぺをぶに、とつぶすと、雅己が笑う。
「だってあの後だって、お前ずーっとからかわれてたじゃん」
「何が?」
「お前の方が死にそうだったって」
「……ああ」
そういえば。あれからしばらく経っても、
延々からかわれたような……。
「お前、オレ死んだら死んじゃうの?」
雅己が、腕の中からオレを見上げて、まっすぐ見つめてくる。
「……後を追うとかはせえへんよ」
「うん」
「……怒るやろ?」
「当たり前」
「せえへんけど……ずっと居ってな?」
「はいはい。……出来るだけ居るから、お前も居ろよなー?」
ぷ、と笑いながら、雅己の手が、オレの首に掛かってくる。
その背をぎゅっと抱き締めながら。
「雅己」
「……んー?」
「……めっちゃ好き」
「……はは。知ってる」
笑う雅己に、見つめられて。
ちゅ、とキスされる。
「お前ほんとずっと、オレの事好きなの?」
「――――……」
頷いて抱き締めると。
クスクス笑われて。ぽんぽん、と背中を撫でるように叩かれた。
(2020/1/12)
後書き
◇ ◇ ◇ ◇
ちょっとお久しぶりの更新♡
「試合で頭を打って気を失った雅己をめちゃくちゃ心配する啓介と、後でそれをいじられて恥ずかしがる雅巳」がみたいです。とのリクエストを受けたら書きたくなって♡ 楽しんで頂けてたら嬉しいです♡
これからも不定期ですが更新しますね♡
by悠里
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