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第13話◇見つめ合う

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「そうだ、啓介、1分見つめ合おうー」
「…………は?」


 部室で着替え終えた所で、雅己はまたおかしなことを、言い出した。
 今日はまだ他の部員が来ていない。


「今日さー、クラスで皆で遊んでたの」
「何やそれ……」

「それがさーやってみたら、すげー面白くてさ。皆すげえ照れるの」
「――――……」

「結構、こいつと見つめあっても、全然大丈夫そうって思っても、じーっと見つめあってると、恥ずかしくなってくるっていうかさ。 普段、ちゃんと人の目みてないんだなっていう結論で終わったんだけど」

「ますます何やそれ……」


 ――――……どうでもいい奴でも照れるなら、オレは、お前とやりたくないけど。



「啓介とはさ、オレ結構目を見て話しる気がするから、しかもいっつも一緒だし。照れないんじゃないかなと思って。 なあやってみよー?」
「――――……嫌」

「ええ、何で?」

「大体、誰とやったん、それ」

 不機嫌剥きだしで聞いてしまうと。

「えっと…… 斎藤と友也と……愛ちゃんと……? オレは3人かな」
「照れた?」

「うん。めっちゃ照れた。特に愛ちゃんとか、向こうがすっごい照れてて、可愛かったけど」

 「愛ちゃん」は、知らんけど。
 ――――……雅己の事、好きなんやないのかな。

 イライラなのかムカムカなのか。なんだかよく分からないけど、気分悪い。


「試そうよ? 啓介」
「――――……ええよ」

 そんで、さっき言ったように、ほんまに雅己、全然照れないんやったら。
 ――――……まあ、万が一にも、可能性もないって思い知らされて、ちょうどええか。

 
 もはやちょっと投げやりで。
 2人で、部室の真ん中に置いてあるベンチで、向かい合わせに座った。



「じゃあ、タイマーかけるね」

 雅己がスマホでタイマーをかけて。


「絶対逸らさない、てルールね」
「ああ」

「じゃあスタート」

 雅己がそう言って、スタートボタンを押す。


「――――……」


 ――――……キレイな瞳やなあ。
 まつげ長い。 でっかい瞳がくりくりしてて。

 ほんま、可愛ぇな。


 照れるというよりは、もはや良い機会とばかりに見つめていると。
 かあっと目の前の雅己が赤くなって、ふいっと顔を背けた。


 ……は? ……何や、その反応。


「……ごめん、無理みたい、啓介とは」

 手で口元隠して、その後、額に手を当てている。


「…って、まだ10秒だった。何これ、なんか、お前が一番照れるかも……」

 熱い、とか言って、パタパタ手で顔を扇いでいる。



 ……オレの思ってる事、伝わってしもたんかな……。
 ちょっと苦笑い。


 

「――――……啓介、恥ずい。 オレのこと見ないで」

「はー??」


 あんまりやない?


「お前が楽しいからしようて言うたんやないか」
「――――……恥ずいだけだった」

 ぷんぷん。
 口を膨らませて、視線を逸らしてる。


 何でお前が怒るんや。
 ……意味が分からんわ。




 ――――……けど。
 見つめあって、恥ずかしいって。


 ……ちょっとは、意識してくれるんかなあ……?
 可能性、ゼロやないってこと?

 ……いやー……
 こいつの反応、訳わからんから、期待はしないでおこ。



「まだ赤いんやけど」
「もうっうるさいよ!!」


 ぷんぷん!! 効果音を雅己につけるなら、そんな感じの態度。


 その時ちょうど他の皆も部室に入ってきて。
 雅己はラッキーとばかりに、別の奴と話し始めるし。

 

 ただ雅己がオレと見つめあっていられないんやなって事が分かっただけの、意味の分からないだけゲームだった。





月日が流れて♡
+++++

 いつも通り、雅己を抱いた後。珍しく眠くないというので、電気をつけた。ベットで横になって、向かい合って、他愛もない事を話していたら。

 不意に雅己が、思い出したように言った。


「こうして見つめあってるとさ、昔ゲームしたの、思い出すんだけど」
「……昔て?」
「高校の頃。啓介と見つめあってさ。すっごく恥ずかしかったの」
「――――……1分見つめあうやつ?」
「そう、それ」

「今やってみよか」
「え」

「よーい、どん」
「え、あ」

 そのまま、じっと見つめ合う。
 ――――……変わらない、まっすぐな瞳。

 ほんま、可愛えな。 
 ふ、と笑んで見つめていると。

 雅己が、眉を寄せた。


「それ」
「……ん? それ?」

「そうやって、なんか、ふわって笑うから、オレが照れるんじゃん! あん時も絶対そうだったし」

「――――……あー……」


 それでか。
 めちゃ照れたんは。

 ぷ。可愛ぇ。

「ずるいよ、これ、無表情で見つめあうゲームなんだからな、笑うとか、無しなんだから。そうだ、あん時もなんか悔しい感じしたのって、それだなっ」

「はいはい、堪忍な。見つめてると、どうしても可愛い思うて、笑うてしまうんよ」
 
 ぐい、と包み込んで、抱き寄せる。


「……けど――――…… 笑ろたくらい、別に関係なくないか?」
「え?」


「ちょっと笑うた位で、あんなにめっちゃ照れるとか、あん時も、オレの事、めっちゃ好きやったんかな?」
「――――……」

 雅己はぱちくり目を見開いて。
 数秒後、何も答えずに。
 ――――……そのまま、すっぽり埋まってきた。


「……も、寝る」
「――――……」

 ぷ、と笑ってしまう。


「……可愛ぇなぁ、雅己」

 抱き締めたまま、そう言ってると。


「もー黙って寝ろよ」
「眠くないから喋ろうって言うたのお前やん」

「オレたった今、すっごい眠くなったの」
「嘘ばっか」

 クスクス笑いながら、埋まってきた雅己を覗き込もうとするけれど、断固として、すっぽりはまってる。



「……可愛ぇなー、雅己」

 
 そのまま抱き締めてると。
 結局ほんとにすやすや眠りだした。


 ――――……ぷ。 
 ほんま、可愛ぇ。



 枕元に手を伸ばして、電気のリモコンに触れ、部屋を暗くした。




 すっぽり抱き直して。
 ふ、と笑ってしまいながら、眠りについた。






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