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第2章

「彼女は居ない」

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 昨日バーベキューした場所に行くと、もう皆、焼き始めていた。
 少しずつ食べ始めたとこだったみたい。

「おはよー」

 そう言って近づいていくと、皆が「おはよー」とか「何言ってんの」とか、笑ってくれる。そこに志門たちも居るんだけど、もう、午後いっぱい入り混じってゲームを楽しんだおかげで、なんかとっても仲良い雰囲気。

 やっぱりバスケってイイよなー、戦った相手ともすぐ仲良くなれるし。うんうん。なんて思いながら、皆に混ざる。

 ふと目に映るのは、啓介が向こうのマネージャーっぽい子に話しかけられてるところ。……話は聞こえないから、世間話かもしれないけど。

 何だろうねー、女の子ってさー、背が高くて、顔良くて。しかも関西弁ってかなりポイント高いらしいよね。啓介の関西弁は優しいし。声も良いって女子が言ってたの聞いたことあるし。

 女の子って、こう……ぴーんとレーダーみたいなのはってて、反応したら、ぴょこんと飛びつくみたいなね。啓介と居るとそんな光景、よく見るから、ほんと、すごいなあって思ってしまう。

 まあ別にね、オレは、啓介みたいに心狭くないから、別に啓介が、よそのチームの女の子と楽しそうにしてようと、別に怒んないですけど。

 焼いてくれたお肉を食べてると、志門が隣にやってきた。

「寝てたんだって?」
「あ、うん。爆睡しちゃった」
「すごい走ってたもんな」
 志門の言葉に、ん? と首を傾げた。
「皆も走ってたでしょ?」
「雅己が一番疲れそうだった」
「そう?」
「一生懸命って意味な?」

 クスクス笑いながら、そう言われる。

 確かに、お前に付き合って走ってると死にそう、とか何度か言われた記憶がちらっと脳裏をよぎるので、否定はしないけど。

「まあなんか昔から、スタミナだけはあるんだよね」
「そんなことないだろ」
「ん?」
「スタミナだけってことは無いよ。バスケ、ほんとうまい」
「え。そう?」

 わー、嬉しいな。

「褒めてくれたから、肉乗せてあげよう」

 言いながら、目の前の網から、ほいほいと志門の皿に乗せると、志門が面白そうに笑いながら、ありがと、と言った。

「スリーポイントとか、ほんと感動した」
「えーでも、あれは啓介に習ってるから。啓介の十八番だよ」
「啓介もうまいけど、雅己は、ジャンプが綺麗な気がする」
「えー?? そうー??」

 と聞きながらも、オレは超嬉しくて、笑顔が隠し切れない。
 その時。ふっと。


『志門、雅己のこと、めっちゃ気に入っとるやろ?』

 そんな言葉がよぎった。

 気に入っとる。
 啓介って、いったいどういう意味で言ってるんだろう。
 
 思わず、志門の顔をマジマジ見てしまう。
 
「ん?」

 不思議そうにオレを見て、にっこり笑って見せる志門。

「なんでもない」
「何か言いたげだけど?」
「いや……」
 なんでもないと言いかけて、あ、と思いついた。ちょうど今周りに誰も居なくて、志門と二人だし。

「志門て、彼女居る?」
 居たら、啓介に言っといてやろう。変な心配するなって。

「今は居ない。夏休み前に別れた」
「あ、そうなんだ。振られちゃったの?」
「ほんとに振られてたらどうするつもり?」
「……どうしよう」

 は、と固まると、志門はプッと吹き出しながら、「自然消滅っぽいのを別れたとこだから、大丈夫」と言ってくれた。

「そっか。自然消滅って何、会わなくなったの?」
「そう。まあ、大学が別になったから」
「あ、高校の子だったんだ」
「そ」

 ほらほら、啓介。志門、彼女居たじゃん。
 変な心配してからにもう。やれやれ。あとでいっとこ。と思っていると。「雅己は、彼女は?」と聞かれた。

「彼女は居ないよ」
 普通の言葉として言ったのだけど。

「ふうん? ああ。……彼氏はいるとか?」
「――――」

 ちょっと間を置いて、えっ、とびっくりして、志門を見てしまう。


「――――その顔って、肯定?」

 志門はクスクス笑って、オレをまっすぐ見つめてくる。



 

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