上 下
233 / 248
第2章

「呼ぶ声」

しおりを挟む


 一ゲーム終了。
 うちの勝ち。

「やっぱこれって、現役のスタミナに負けた気ぃする……」

 志門たちが苦笑しながら、どか、と体育館の真ん中に座った。
 熱いし疲れてたしで、オレ達もそれぞれ横になったり、座ったり。

 オレは大の字に転がった。

「……すげー真剣に走った」

 そう言ったら、隣にいた志門に、くすくす笑われた。

「雅己が、けーすけ、て呼ぶのが聞けて、感動した」
「……感動って変だけど」

 オレが苦笑すると、志門の周りの奴らも、「ある種、感動」と笑う。

「あ、なあなあ、チーム、シャッフルしない?」
「シャッフル?」
「そう。適当に入れ替えて、遊ぼう」
「はは。面白そう。いいね」

 ね、と寝っ転がったまま、皆に視線を向けたら、「良いけど、もうちょっと休憩~」と苦笑してる。

「雅己、オレと一緒になろうよ」
 志門が不意に言ってくる。ん?と顔を見上げながら、体を起こした。

「いいけど。え、指名制なの?」
「いや? なんか雅己に、名前呼んで欲しい」
「志門ー!って?」
「あ、オレもー!」
「え、名前、何?」
「そうし!」
「そうしね」
「オレもー」
「は? オレそんな名前覚えらんないし! つか、チーム決めてからにしようよ」

 オレがしかめっ面で言うと、良たちが、不思議そうな顔でオレを見てくる。

「何で、雅己に名前呼んで欲しいとか、なってんの?」
「ああ……」

 啓介がすごい苦笑いでオレを見てくる。
 わーわー、言うな言うな、と思ったら啓介は、ぷ、と笑って口をつぐんでる。はー、よかった、と思った瞬間。
 志門が、良たちに笑い出した。

「高校ん時の大会でさ、オレら、雅己が「啓介!!」ってめっちゃ呼んでるの、すごい見てたの。なー?」
「そうそう、あの感じで呼んで欲しいなって思っちゃうほどだったよなー?」

 と。志門その他が、楽しそうに、オレのチームメイトたちにあれこれ話してる。

 なるほどね、確かに呼んでた呼んでた、と大笑いの皆。

「他のチームにまで認識されてるとか、すげーな、雅己」
「うるさいなーもー、オレの声がよく聞こえるって話だろ。ていうか皆も名前呼んでたでしょ」

 むー、と膨らんで言うと、志門たちが可笑しそうに笑う。

「そうそう、そんでもって、オレら、次の試合相手として、結構真面目に見てたから。余計だったけどね」

 クスクス笑ってる志門たちに、もー言うなよーと文句を言うと。

「ていうか、今更じゃん」
「そうそう、今更。皆知ってるし」

 仲間たちの言葉に、はーと、ため息。
 啓介は可笑しそうに笑いながら、「どーやってチーム分ける?」と志門達に話しかける。


 もー……結局皆にも、オレの「啓介呼び」が、全然知らないチームの中で有名だったの、バレたー。超恥ずかしいし。もー。
 今更と言って、皆が特別気にしてないのも、なんかそれもまた逆にどうなの?って感じがするし。

 はーやだやだ。はず!


 ぷんぷんしてると、啓介がちょっと近づいてきて、オレに何か言いたげ。

「ん?」

 耳を寄せると。


「オレを呼ぶみたいに、他の奴呼ぶなや?」
「え」

「えーな」


 言いながらオレをじっと見つめてから、啓介はまた離れていって、何やら話しているけど。



 もー、なんなの、ほんと!
 笑ってたくせに、妬くなよー! もー!

 意味分からん。もう。






(2024/3/27)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

処理中です...