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第2章
「感謝とか」
しおりを挟むその後めっちゃくちゃワーワー騒ぎながら、オレは、ついに自分で生餌を針につけられるようになった。先輩たちに苦笑されて、雅己がうるさいから魚が逃げるとか文句を言われながら。
やっとできた時、多分キモくて涙目だったオレを見て、啓介が、笑いをこらえながら、「頑張ったな」と撫でてくれた。
一回やってしまえば、もうあと覚悟の問題で。
気持ち悪すぎるけど、なんとかできるようになったから、オレとしては、ものすごい達成感。
で、魚釣れた時は、また魚がビタビタしてるのが無理で、それは啓介に取ってもらった。
「取るのはせえへんの?」
と笑われて、それはいい、と拒否。
……だって。すごいビタビタしてて、なんか怖い……。きっと、捕まりたくなかったんだろうなーーとか考えちゃうと。ごめんよとか思ってしまいながら。
「なんか漁師さんに、感謝する日になったかも……。あと、魚にも。生餌の虫にも」
と、しみじみ言ったら、なんか周りにいた皆と啓介に、吹き出されて、もうなんか、めっちゃくちゃ、笑われた。
えっ。オレ、本気でそう思ったのに何で笑うんだよって怒ってたら、なんか余計笑われるし。
もう皆嫌い、と、オレはまた一人で釣りにもどることにして、竿を持ってると。
「雅己がかわいーから笑ってんだよ」
「そんな意味のわからんフォローはいらねー」
そんなやりとりにまた皆が笑う。
皆をほっといて釣り再開。魚がかかるのを待って、石の上に座っていたら、死ぬほど笑ってた啓介が隣にやってくる。今周りには皆が居ないので、オレは、啓介に向かってだけ、むっとして見せた。
「つーか笑いすぎ」
「ああ。すまんすまん。ほんまかわええなーと思うてるんよ。オレはな」
「――――……」
「雅己はいちいち純粋やから。反応素直やし。……ほんま好きやなーて思う」
周りに人が居ないのをいいことに、なにやら恥ずかしいセリフを言って、オレをごまかそうとしている気しかしないけれど。
「釣るのが色々大変やから、漁師さんに感謝とか言い出したんやろ?」
「そうだけど」
「もーなんやその小学生みたいな発想が……」
「バカにしてるよな、絶対ー」
むかつくー!と怒っていると、啓介は、ふ、と笑った。
「そういうんが、めっちゃ好きって思う。素直なんよ、雅己」
「――――……」
「この年んなると、なかなかそんな素直にそんな恥ずかしいこと言われへんし」
「……っっっもうお前、ほんとやだ。向こう行って。この年って、じじーか、もう!」
オレが怒ってずっとぶつぶつ言っていても、啓介は楽しそうにしてて、クッと笑いながら、オレを見つめる。
「反応おもろいから、からかってまうけど、言うてることは、ほんま。可愛えと思うてるよ」
「……るさい」
言うと、啓介はまた楽しそうにオレを見つめてる。ぷい、と視線を逸らした瞬間。ぴく、と反応する浮き。
「あ」
「もう少し待って」
「……っっ」
「ええよ、上げて」
言う通りにしたら、二匹めゲット。砂利の上で暴れていて、正直怖い。
「早く啓介、つかまえて」
「今向こう行け言うたやん?」
「いーからもう、早く―」
「はいはい」
クスクス笑いながら、地面でビタビタしてる魚を捕まえる啓介。
川で少し魚を洗ってから、バケツに入れてくれるのを見ていたら。
「なんかオレ、漁師もだけど、啓介にも感謝してるかもしれない……啓介居なかったら、釣り出来なかった」
そう言ったらまた吹き出されて、もー、まじめにきけよーとオレは、もうマジで膨らんだ。
(2024/2/7)
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