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第2章

「めちゃくちゃ奇遇」

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「あの」
「え?」
 呼ばれた気がして、啓介を呼ぶ前に一度振り返ったら、ボールを渡してくれた男が、何だかよく分からない表情で、オレをすっごく見つめてきた。

「?」
 一瞬、知ってる奴? と考えはじめたところで、啓介が隣に走ってきた。

「雅己、どないしたん?」
「あ、啓介。ボール拾ってもらったんだ。あ、それでね、今オレ、啓介、呼びに行こうと思って」

 啓介にそう言った瞬間。オレをガン見してた男が、不意に「けいすけ? まさみ……」と呟いた。え?と顔を見つめると。

「……あ! 思い出した! 『雅己』くん?」
「……へ??」

 ぽかん、と口を開いて見つめてしまうけど、名前に反応したみたいだし知り合いなのかと思って、一生懸命、誰だったか考える。バスケやってる訳だし、県大会とか練習試合とかで、会ったかも……? いや、でも全然思い出せない。

 誰? ごめん、どこかで会った? と聞いたら。
 最後の県大会で、オレ達の試合を見てたらしい。で、「啓介」って呼びまくる、超元気なオレがめちゃくちゃ目に映ってて、覚えてたらしい。
 そんなの覚えてる奴居る? と首を傾げていたら、一緒に居た他の人達に話し出して、そしたら、そいつらまで、「うそ、あん時の??」とめっちゃ顔を見られた。

「え、オレのことを覚えてるの??」

 別にオレ、超注目プレーヤーとかじゃなかったけど??
 怪訝な顔をしていたら。

「雅己くんたちのチームが勝ったら、オレらと次、対戦だったからさ、皆で真面目に見てたんだよ。そしたら、なんかすっげー楽しそうで、皆で、勝つかなーってちょっと応援しててさ。啓介!って声がすごくよく聞こえて」
「――――……」
「皆で、啓介ー!て呼びまくってる子がいるチーム、みたいな認識で」
「はーーー??」

 オレそんなに啓介のこと呼んでた?? 
 かなり恥ずかしい。

「そしたら僅差で負けちゃって、対戦は叶わなかったんだけどね」
「そうなんだ……奇遇だね」
「ほんと。こんなとこで会えるなんて面白いー」

 と、そこで、オレがふ、と啓介を見上げる。啓介もオレを見て、ん、と頷いてから、「そっちの、代表の人って誰ですか?」と聞く。

「代表とかは居ないけど、何か話あるなら、聞くけど?」
「うちも、高校のバスケの仲間で来てて、もしよかったら、試合してもらえへんかなと思うて」
「えっ! うそ、マジで?」

 嬉しそうに笑ったそいつの顔に、これは、試合決まったな、とオレは思った。

「なあなあ、高校のバスケの仲間で来てるんだって。試合の申し込み受けたんだけど! いいよな?」

 皆に大きな声で確認したそいつは、ふっとオレ達を見た。

「あ、そっち、今の何年が居るの?」
「高三と大学一年がメインで、あとは先輩が数人」
「うちは大学一年がメインだけどいい?」
「もちろん」

 そんなやりとりをした後、「じゃあ決まり!」と笑う。

「オレ、北野 志門きたの しもん。よろしく」
「杉森啓介。よろしく」
 啓介が言うと、志門は笑いながら「啓介くんと、雅己くん」と言う。

「北条雅己。呼び捨てでいいよ」
「了解。オレも志門で」

「よろしく」

 挨拶を終えてから、少し話した。とりあえず荷物を片付けてから、色々散策したり自主練とかをしたいらしい。なので、こっちとの試合は、お昼を食べてから、午後にってことになった。

 皆のとこに戻ると、皆もオレ達が話してるのは分かってたみたいで、「試合できそう?」と聞いてきた。
 午後から試合、と啓介が言うと、皆、超嬉しそう。

「めっちゃ奇遇なんやけど、向こうの人ら、オレらがもう一個県大会勝ってたら、当たったとこなんやて」
「え。そうなの?」
 要が聞いて、啓介が頷く。

「試合見てたらしくて、オレと雅己のこと覚えとった。向こうの人」
「すごい偶然。てことは、一つ強かったチームってことになんのか」
「そういうことやな」

 ちょっと沈黙。

「なんかすっげー燃えるな?」

 楽しそうに皆が笑う。
 なんか、すごく試合盛り上がりそう。

 皆が楽しそうに話してるのを見ながらそう思っていたら、隣の啓介が、ぷ、と笑いだした。ん? と振り仰いだら。くっくっ、と笑って、皆に背を向ける。

「何??」
 啓介を覗き込んで聞くと、めちゃくちゃ笑いながら。

「啓介って呼んでる元気な子、て。爆笑しそうになったわ」
「っ」
「さっき我慢しとったんやけど、今思い出したら……」
「もー笑うなー、あっ、つか、皆にその話はすんなよなー?」

 すげー恥ずかしいな。もう。
 オレ、普通にプレーして呼んでただけの筈なのに。



 

  

 (2024/1/7)
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