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第2章
「浴衣」
しおりを挟むそーゆーとこ好き。
なんかたまに啓介に言われる気がする。……なんか嬉しい。
でもオレも言ってるかもなぁ。こういうとこ、好き、とか。良く思う気がする。そんなことを思いながら、二人で大浴場を出て歩き出すと、廊下の大きな窓から中庭が見えた。
「すげー綺麗。ライトアップされてるー」
「後で行くか?」
「うん、行こー行こ―」
「食後の散歩、な」
「うん。皆も行くかな」
「聞いてみよ」
「うん」
頷きながら、啓介を見上げる。
ふ、と気づく。
「ん?」
「……なんか浴衣ってあんま着ない、よな」
「せやな」
「……なんかいつもと違って、見えるかも」
「ふぅん?」
啓介は面白そうにオレを見て、クスッと笑った後。
「惚れなおす、とか? そんな感じ?」
「……べ。別に。そういうんじゃ、ないけど」
「ないけど? なんや?」
ニヤニヤ笑う啓介に、むむ、と口を閉じてから。
「ちょっとなんか……大人っぽく見えるかも、て話」
「ふぅん……」
「Tシャツとか着てるよりっていう……そんだけだから」
「ふーん……?」
ああ、なんか顔が、熱くなっていく。
なんかオレ、またハズイこと、言ってるのでは。
「……大人っぽく見えて、好きなん?」
「…………っっ」
ああもう、やっぱりそっちにつながってるのバレバレだよな。
くー。言うんじゃなかった。
恥ずかしさを隠したくて、ちょっと膨らんでそっぽを向いていると、啓介がクスクス笑いながら、オレの腕を掴んだ。
優しいそれだったけど、自然と、啓介を振り仰いでしまう。
……あーなんか……。
オレ、いつの間に、こんなに啓介のこと、好きになってるんだろう。
浴衣、着てるくらいで。ちょっといつもと違う位で。
なんか。
ドキドキ、して。
なんだこれ。乙女か、オレ。
「あー。あかん」
そうつぶやいた啓介に、ぱ、と手を離される。
ん?
今度は不思議に思って、振り仰ぐと。
「……お前のこと、からかってる余裕はないんかも」
「??」
「……めーちゃ、可愛く見える」
「――――……」
「……首筋とか、なんや、色っぽいし」
「…………っ」
啓介が、はー、とため息をつきながら、口元を片手で覆って、ちょっと視線をあらぬ方向に向ける。
なんかものすごく、恥ずかしいことを言い合っているのだけど。
「……啓介、もしかして、照れてる?」
自分はめちゃくちゃ照れてたのを棚上げして、聞いてみる。
「照れてるっちゅうか……あんま見てると、収まんなくなりそうでヤバい」
そんなこと言われると、なんか、めちゃくちゃいろんなことが、頭によぎってしまう。
自分のそれを抑えるために「……けーすけのすけべ」とからかってみたら。
「はー? ちゅーか、もとはと言えば、お前が顔赤くして見上げてきたせいやろが」
「そ、そ、そんなことしてないもんね」
……したかもだけど。
「したわ。……キスしてほしいなーとか思うた?」
ちょっとうろたえたら、あっという間にまた形勢逆転。
「し、してないし」
何で分かったんだ。
思った。抱き付いて、抱き締められたら、なんかいつもより、肌が触れそう、とか。裸で抱き合うのとかとはちょっと違うかも。とか。なんか色々ぱーーっとよぎって、恥ずかしくなったっていうのはあるけど。
「はー。……後でどっかで二人んなれるとえーけど」
「なれないだろ」
「なれそうなとこ探そ」
「無理だろ。ていうか、そういうの我慢するって言ったじゃんー」
「せやけど……浴衣って、ヤバない?」
「……ちょっと分かるけど」
「分かるんやな」
ぷ、と啓介が笑う。むーー!乗せられたー!と思った時。廊下の奥から、皆が歩いてきた。
「居た居たー! 食事行くぞー」
「何してんだよ、風呂長すぎだろー」
そんな事言いながら近寄ってきた皆に、「ごめん、オレ寝てた」と言うと、皆が呆れたように笑う。
皆に混ざって歩きながら、視線を感じて啓介を見ると。
何人か越しに、べ、と舌を出されて、にや、と笑われる。
あっかんべーで返して。なんか楽しくて。
はは、と笑った。
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