202 / 249
第2章
「悔しいけど」
しおりを挟むボールを持ってドリブルしながら、啓介の前に立つ。
抜くか。パスするか。一瞬で考える。
……ドリブルで抜ける気がしないんだよな。ムカつく。
さっき一対一やってた時も、なかなか抜けなかったし。
だったら。パス。点を取れたらチームは勝ちになる。
そう、思うんだけど。やっぱり、自分で抜きたい。
フェイントを使って抜こうと思った瞬間。するっ、とボールが奪われた。
あ、と思った瞬間、パスされて、速攻で攻められて失点。
ちくしょー、と思うのだけれど。
今のはなんだか鮮やかにとられすぎて、ちょっとカッコイイなと思ってしまう位。
余計に燃えて、今度は絶対抜くと決めて、啓介を抜けて点を決められた時はめちゃくちゃ嬉しい。
攻めて守って、奪って奪われて。
啓介だけと戦ってた訳ではもちろんないけれど、オレの中でのメインの相手は、啓介。
啓介にこだわってたのは、昔からだなぁ。なんて、バスケすればするほど、思いだしてくる。
……啓介に告られなければ、今みたいな関係にはならず、大好きな友達のままだったと、思うけど。
大好きでこだわってたのは、昔からだ。
めちゃくちゃ必死で戦った末。
一点差、あと一本とれたら勝ち、のところでタイムアップの笛が鳴った。
「え、もうおわり?」
がーん。
あと一本だったのにー!
めちゃくちゃショックで立ち尽くしていると、啓介が笑いながら近寄ってきて、お疲れ、と肩に触れた。
「もー、すげー悔しいー」
思い切り面と向かってそう言うと、ぷ、と啓介が笑う。
「はいはい」
ぽんぽん、と肩をたたかれて、なんだか余計悔しい。
周りの皆は笑ってるし。啓介も楽しそうだけど。
オレはめちゃくちゃ悔しい。
「けーすけ、シュート勝負しようよ。スリーポイントの」
「ん? 今?」
「うん。皆もやろー。打ち続けてのサドンデスー」
「今―?」
「オレ、も―疲れたー」
皆、コートの外で飲み物を持って、座り込む。
「何もう皆、じいちゃんか!!」
何なんだよもうー!と、ツッコミ入れてると、少しして後ろから、「雅己、やろうや」と声をかけられる。振り返ると、啓介がボールをクルクル回してた。
「うん!」
啓介に駆け寄りかけたところで、「あ」と手で制される。
「なに?」
「その前に水飲んでこいや」
「啓介は?」
「も、飲んだ」
「わかったー」
言われてすぐコートから外れて水分補給をしていると、「ほんとお前ら、元気なー」と笑われる。
「オレも、もう少し休んだら、付き合いますね」
良が言うと、他も何人かそう言う。
「ていうか、良たち、現役じゃん。ちょっとなまってんじゃないの?」
「……雅己先輩たちと比べないでくださいよ。前からスタミナすごすぎだったし」
「え、そう? オレはそんなことないけど。むしろ、けいす――――……」
話してる後ろで、タンッと小気味の良いボールを突く音がして、ふ、と振り返った瞬間。
啓介が、めちゃくちゃ綺麗にシュートを放って、それがゴールに吸い込まれた。皆見てたみたいで、ワッと体育館が沸いた。
「相変わらずめちゃくちゃ綺麗ですね」
「……うん」
良の言葉に頷きながら、水筒を置いてすぐ駆けだした。
「ずるい、啓介! オレもやる!」
言うと、ゴールから落ちてきたボールを捕まえながら、オレを振り返って、おかしそうに笑う。
「ずるいって何やねん」
「だってずるいし!」
あんまり綺麗で、ずるい。
すごく綺麗なシュートを見て、死ぬほど練習したけど、結局追いつけなかった気がするし。むかつくー。
「やろ、雅己」
「絶対負けないー!」
「はいはい」
苦笑いの啓介に、詰め寄ると、ますます笑われる。
「どっちからがええ?」
「オレから!」
「おっけ」
ほら、とボールを渡される。
ボールを受け取った瞬間から、わくわくが倍増。
ああもう。
やっぱ、啓介とバスケすんの。悔しいことも多いけど、すっげー楽しい。
68
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説
琥珀いろの夏 〜偽装レンアイはじめました〜
桐山アリヲ
BL
大学2年生の玉根千年は、同じ高校出身の葛西麟太郎に3年越しの片想いをしている。麟太郎は筋金入りの女好き。同性の自分に望みはないと、千年は、半ばあきらめの境地で小説家の深山悟との関係を深めていく。そんなある日、麟太郎から「女よけのために恋人のふりをしてほしい」と頼まれた千年は、断りきれず、周囲をあざむく日々を送る羽目に。不満を募らせた千年は、初めて麟太郎と大喧嘩してしまい、それをきっかけに、2人の関係は思わぬ方向へ転がりはじめる。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる