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第2章
「満喫」
しおりを挟む旅館に入ると、二階の奥の部屋に案内された。
窓から下を見ると 川が静かに流れている。
見渡す限り、大自然って感じ。
ああ、すっごく良いな、癒される感じ。
全員が部屋に入って、荷物を置いたところで、先輩たちが「何する? バスケ? 散策?」と聞いてきた。すると啓介が時計を見ながら言うことに。
「今日の昼、バーベキューで時間早いんです。あと二時間弱位で昼なんで、バスケは午後にして、付近の散策にしません?」
その言葉で、もう散策に決定。
「貴重品だけ持って、外行こうぜー」
皆バラバラと、小さめの鞄に財布を移したり、ポケットに入れたりしながら、靴を履いて部屋を出ていく。
「なー、啓介、見てみて、超綺麗」
窓から外を眺めてたオレが呼ぶと、啓介が、ふ、と笑んで近づいてくる。
「ほんまやなー。あの川、近くまで行けるよな」
「うんうん、行こう、あれやろうよあれ」
「何?」
「石投げてさ、ぽんぽんぽんって、水面に……」
何と言ったらいいか分からなくて、ジェスチャーで話してると、入り口の方から。
「鍵は持ってるかー?」
「あー、オレ持ってるんで閉めて、すぐいきます」
啓介がそう答えると、皆、よろしくーと言って出て行った。
「何個跳ねさせられるかってやつか?」
啓介がクスクス笑いながらそう聞いてくる。
「そうそう、それ。やろー」
「ええよ」
「あ、皆行っちゃった。オレらも行こ」
言いながら、窓を閉めて、障子もしめる。
財布とスマホだけポケットに押し込んだところで、啓介に腕を引かれた。
「――――……」
触れるだけのキスが重なる。
「…………」
思わず、唇が離れると同時に、部屋の入口の方を見てしまう。
「誰も居ないの確認してからしたわ」
啓介は、クスクス笑うけど。
「啓介さー、二泊三日は我慢するから、とか言って、昨日、しつこかったんじゃないの」
「まあせやけど」
「もうキスされましたけど」
キスのところだけ小さくして、そう言うと、啓介は、ふ、と笑った。
「せやかて、チャンスが来るか分からんやんか。触れない覚悟もちゃんとしとったし?」
「何? 今チャンスだった?」
「……せやな、なんか急に二人きりやしな?」
「でも、部屋のドア、鍵掛かってないし。危険じゃん」
「大丈夫やろ。 今、向こうからやと何してるか見えない位置でしたし」
……さすがというのか何なのか……。
「でも気を付けてね。あ、とにかく皆待たせちゃうから、行こ」
「ん。気を付ける」
クスクス笑う啓介に、ん、と頷く。
靴を履いて、部屋の鍵をかけると、皆の後を追って旅館のフロントへ。鍵を預けて、旅館を出た。皆がばらばらと写真を撮ったりしながら待っていてくれた。
「鍵、フロントに預けたんで、一番先に戻った奴が、トークルームに鍵持ったって、入れといてー」
啓介が言うと、皆、了解ーと笑う。
「何時までに部屋に戻ればいいんだ?」
「十一時半ですね」
じゃあそれまで適当にぶらつこうぜ、と先輩たちが言う。
「川行く人は―? オレ行くよー」
オレがそう言うと、結局皆がまず川から行くことにしたみたいで。
要とオレと啓介が先頭で歩いて、河原に降りる階段を駆け降りてくのを、後からついてくる。
河原に降りると、川の流れる音が間近で聞こえてくる。
「うわー……何か、いいねー。癒される感じ」
そう言うと、要がクスクス笑う。
「雅己はいつも癒されてそうだけどなー? ある? なんか溜まっててどうしようもない、とか、そういう時」
「失礼な。オレだって、色々あるんだからね!」
そう言うと、横で啓介が、ぷ、と吹き出す。
「あるん?」
「……っあるよ!」
「いっつも、のほほんとしとる気ぃするけどなあ?」
「だよなぁ?」
要と啓介が、なんだかとってもニヤニヤしながら言ってる。
「はー、こういうね、誤解がストレスになっちゃうんだよね」
ふー、やれやれ、とため息をつくと、ますます笑われる。
「つか、もういいよ。 オレは、何回水面を跳ねるか選手権をするから!」
平たい石を河原から拾って、人の居ない方に向けて、なるべく水面と並行に投げてみる。
ぽんぽんぽん、と水面が跳ねて――――……。
「四回だった?かな?」
「せやな、四回」
「すげえ、ガキの頃によくやったな、それー」
それからあとから来た皆も加わって、皆で石を投げて遊んだ。
オレ達以外、誰も居なくて、こんなに皆で騒いでても誰の迷惑にもならないし、すっごい楽しい!と、始まったばかりで、満喫してしまう。
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