174 / 250
第2章
「不意打ち」
しおりを挟む『ん。――――……ほしたら後で電話する』
「ん……じゃな?」
そう言って、切ろうとして少しスマホを離したオレの耳に、啓介が何か言う声が聞こえた気がした。もう一度、持ち直す。
「……何か言った?」
『言うた』
「何?」
『もう夕飯食うた?』
「ううん。まだこれから」
『ちゃんと食えや?』
「うん。大丈夫、オレ一人暮らし、一応少しはしてたし?」
「そうやけど……」
「分かってるって。 お前何回それ言ってんだよ? 大丈夫だってば」
『せやかて一番心配なん、飯なんやもんなぁ。適当に済ませそうやし』
啓介の苦笑いが聞こえる。
『ま、えーか。また明日から、オレ、側に居れるしな』
「そうだな。――――……じゃな、啓介」
『あ、なぁ、雅己!』
「ん? 何?」
なんか、電話、全然切れないんですけど?
そう思って、クスクス笑ってしまうと。
『……めっちゃ好きやで? めっちゃキスしたい』
「――――……!」
……あぁ。もう、不意打ちだなぁ。
好き、とかは、さっきも言ってたし。結構慣れてきたけど……。
キスしたいとか、そういうことしたいとか言葉で言われるのは、ほんと、慣れない。
啓介が側に居ないことに、ちょっと感謝してしまう。
前触れもなく放たれた言葉に、一瞬にして熱が顔に集まった、から。
「……分かってるってば」
照れ隠しに言うと、「あ、分かっとる?」と、啓介が笑う。
「……うん。分かってるってば。昨日から、そう言う感じのこと、何回言ってんの?」
すると、啓介は少しだけ黙って、それから、苦笑いしてる雰囲気。
『せやな。ほんまやな……。ん。じゃな、雅己、またあとでな』
「うん。じゃあな」
ボタンを押して、今度こそ、通話を切った。
黒くなった画面を少しの間見つめて、はあ、と息をつく。
…………オレも好きって。キスしたいとか……言うべきだった、かなあ……??
でもなあ。面と向かって言うのも恥ずかしいけど、電話に向かって一人で言うのもなあ……。まあ。言わなくても、大丈夫かな、うん。
軽く息を吐きながら、スマホを握り締めた。
なんか麺類で済まそうと思ってたのに。
……ちゃんとって言われたなぁ……。
んー……。
とりあえず、ちゃんと夕食を取って。
それから――――……。
啓介から電話が来るまで、のんびり待とうかなー……。
ベッドで、電気消して、啓介と話して。
「おやすみ」って、あいつの声で聞いてから――――……。
それから、眠ろう。
で、今夜が終わったら。
もう、「明日」だし。 明日になれば、啓介が帰ってくる。
「――――……おし♪」
勝手に綻ぶ顔をそのままに。
さっきよりも少し増えた星を、見上げた。
「――――……」
細く光る月と。小さくバラバラと瞬く星と。
耳に残る、啓介の声に。
何だかますます、微笑んでしまう。
髪を揺らして吹く風が――――……とても心地よかった。
80
お気に入りに追加
1,891
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる