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第2章
「ムズムズ」
しおりを挟む少し待ったけど、啓介は黙ったまま。
珍しい。
啓介が、黙るとか。
「……啓介?」
名前を読んだら、少しして。
『はー……なんや――――……めっちゃ会いたいんやけど』
ため息まじりの言葉。
――――……それも、なんか。すごく珍しい気がする。
「……ばぁか」
言った自分の顔が、勝手に笑顔になるのに気付きながら、オレは続けた。
「今朝まで一緒だったじゃん。……明日からまた嫌ってくらい一緒だろ?」
言ってから、言い方を間違ったと思ったけど。
気付いた時にはもう、多分遅かった。
なんかちょっと、さっきと違う感じの沈黙。
あ、ごめん、間違った、と言おうとした瞬間。
『……一緒に居んの、嫌なん、雅己』
あ、やっぱり、「嫌ってくらい」のとこに超引っかかってるし。
啓介の声のトーンが一つ下がる。オレは苦笑いとともに、一言。
「……あのさぁ……」
『……何やねん』
「オレ、さっき、待ってるって、言ったじゃん」
こんな事で拗ねるなよなー……。まあ言い方悪かったけど。
そう思いながら言ったオレに。啓介はまた少し黙って。
その後、すぐに、「せやな」と、笑った。
『明日、待っとってな?』
「うん。ていうか……啓介って、ほんとにほんとに、オレと離れたくないんだな」
『何を今更、分かり切ったこと言うてんねん』
あまりにまっすぐな答えが即座に返ってきて、笑ってしまう。
――――……知ってたけど。
なんかオレのことを、すごく好きっていうのは……。
でも、なんか、昨日から、離れたくない、て何度も言われてる気がするし。
こんな甘えたな感じは、今まで知らなかったから。
――――………なんか。
ちょっと可愛いんですけど。
そんな自分の気持ちに、なんか、むずむずする。
『知っとるやろ、ずっと居たいって』
「うん、まあ。知ってる」
頷いた途端。啓介の側が一気にやかましくなった。
『なぁにしてんだよ?』 『彼女かぁ?』『早よ来いやー』
『やかましわ、すぐ行くから中で待ってろや』
『んだよ、つめて~な~』
『電話中やし。散れや』
そんなやりとりを電話越しに聞きながら、オレは微笑んでしまう。
啓介みたいなのが、いっぱい居る、なんて思ってしまった。
『堪忍、雅己。久々帰ると、やかましゅーてかなわん……』
とか言いながら、啓介も笑ってる。慣れた、懐かしい人達だもんな。
うるさくても、楽しいに決まってる。
「いーから。早く行きなよ」
本当は。もう少し話していたい気もしたけれど、そう言った。
啓介も渋々といった感じで頷いた。
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