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第2章

「ピンクの空」6

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 冷たいシャワーで身体を冷やして、部屋に戻ってくると、もう部屋の中は完全に暗くなっていた。電気は付けずに麦茶をコップに入れて持ったまま、ベランダに出てみると、遠くに薄く紫色の空が見えて、真上には、星がいくつか輝いていた。

 麦茶を一口飲んで、そのままぼうっと空を見上げていると、部屋の中でスマホが音を立てた。
 部屋に戻って見ると、ディスプレイには、啓介の名前。

「――――……」

 ふと時計に目を走らせる。
 夕飯食べに行ってる頃じゃないのかな?
 そう思いながら、通話ボタンを押して、耳に当てる。

「もしもし?」
『あ、雅己? 今平気か?』

 いつも通りの啓介の声に、ふ、と笑んでしまう。

「ん。シャワー浴びたトコ。……どしたんだよ?」
『あー……じゃあ見とらんかな……』

「……何を?」

 聞きながら、何となくまたベランダに出て、手すりに寄りかかりながら、空を見上げた。


『今さっきな……空がめっちゃピンクやったんや』
「――――……」


 何だか、言葉を失ってしまう。

『ほんま、めっちゃ綺麗やったんやで? いつもの夕焼けより、ほんっまに完全に、ピンク色した空でな』

 途端。オレはプッと笑い出してしまった。

『あ、信じてへんやろ。ほんまにピンクやったんやで? 見とったら納得するで、絶対』

 その笑いを、どうやら勘違いしたらしい啓介は、慌てて付け加えている。それが余計におかしくて、オレはひとしきり、クスクス笑ってから。


「見たよ」

 そう、言った。


『え?』
「オレも―――……その空、見た」

『あ、ほんま?』

 啓介の声がパッと明るくなる。

 多分、嬉しそうに、笑ってるんだろうなーと、想像すると、口元が綻んでしまう。

「うん。シャワー浴びる前。見てた」
『そぉか、見てたんか。……空、こっちとそっち、一緒なんやな』
「うん」

 楽しげに言う啓介に、オレはまたクスクス笑った。


『何や、嬉しいかも』
「ん?」

『――――……雅己が、オレと同じ時間に……オレと同じモン見てたかと思うと』
「―――……」

 そんな言葉には、咄嗟に切り返す言葉も浮かばない。

 だってオレも。
 啓介に見せたいなーって、思ってたから。一緒に見れてたって、今、なんか、すごく嬉しい。


『皆と移動してたから、電話はかけられなかったんやけど……めっちゃ雅己に見せたい思うてたんや』
「――――……」

 その言葉を聞いた瞬間。
 胸の中に広がった優しい気持ちに。オレはクスッと笑って、瞳を閉じた。

「……啓介……」
『ん?何?』


「――――……帰ってくんの、待ってるから」


 ――――……頭で考えるよりも先に。
 気持ちのまま声を出したら、その言葉が自然と漏れた。





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