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第1章
「別れないって」
しおりを挟む食事と片付けを終えてから。
母さんに電話して、事情を説明する。
「うん。そう…… 啓介と。だから、引っ越していい?」
もともと一緒に住めばと言ってた母さんなので、言った瞬間にOKをもらった。
引っ越し費用かかっちゃうけど、と言ったら、この先家賃が半分になるし、全然いい、との事。近況報告を少しして、電話を切った。
あまりにあっけなく終わった電話に、クスクス笑ってる啓介を見て。
「……良いって。啓介によろしく、だって」
「ん。オレの方も、雅己が入るの良いて言うてた」
一緒に掛け始めた、啓介のお母さんへの電話は、もっと早く、簡単に終わっていた。
「明日にでも、引っ越し業者、問い合わせてみよ。引っ越しシーズンやないし、荷物も少なければ、すぐ受けてくれるやろ」
「……うん」
少し間を置いて、頷くと。啓介が、オレを覗き込んだ。
「……どした?」
「いや……別に」
「ん?」
「……なんか…… こんな簡単にOKが出て、いよいよ、てなると」
「なると?」
「――――……ほんとに良いのかなあって」
言ったオレの頬を、ぷに、と挟んで。
「いいのかなって何がや?」
「――――……お前と暮らしちゃって」
「せやから――――……何があかんの?」
「――――……」
少し考えて。
啓介を見上げた。
「……いけなくはないよ」
言うと、啓介、クスクス笑う。
「いけなくはないんだけど――――…… そう簡単に別れたりできないけど、いいのかなって……言おうと、思ったんだけど……」
「――――……」
オレは、啓介をまっすぐに見上げた。
「……でも、啓介は、別れないって言いそうだから。もういいやって思った」
そう言ったら。
啓介は、お、と眉を上げて。
それから、すごく楽しそうに、笑った。
「――――……分かってきたやん」
そんな言葉に、楽しそうだなあ、なんて、啓介を見上げていたら。
肩に触れた手に引き寄せられて、キスされる。
ゆっくり、触れるキスに。
じっと、啓介を見つめていたら。
同じくオレを見つめてた啓介の瞳が、ふ、と笑んだ。
触れてた唇から、ぬる、と舌が入ってきて。
「……ン……」
絡んだ舌に、自然と目を閉じる。
……啓介のキス。
ずっと、好きじゃなかった。
気持ち良すぎて。正気、奪われるし。
息苦しくて。
体、熱くなって、結局、その後、思い通りにされる事が多いし。
好きじゃ、なかった。けど。
でも、今は――――……。
「――――……」
ゆっくり、唇が離れる。
「――――……?」
ふ、と瞳を開けると、目の前に、優しい瞳。
クス、と笑って。
「――――……キス、好きて顔、しとるな……」
啓介の右手の親指が、唇をなぞる。
「……っ……」
考えてた事、全部バレたみたいな気がして、かあっと、赤くなる。
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