上 下
93 / 249
第1章

「別れないって」

しおりを挟む


 食事と片付けを終えてから。

 母さんに電話して、事情を説明する。
 

「うん。そう…… 啓介と。だから、引っ越していい?」

 もともと一緒に住めばと言ってた母さんなので、言った瞬間にOKをもらった。

 引っ越し費用かかっちゃうけど、と言ったら、この先家賃が半分になるし、全然いい、との事。近況報告を少しして、電話を切った。

 あまりにあっけなく終わった電話に、クスクス笑ってる啓介を見て。

「……良いって。啓介によろしく、だって」
「ん。オレの方も、雅己が入るの良いて言うてた」

 一緒に掛け始めた、啓介のお母さんへの電話は、もっと早く、簡単に終わっていた。


「明日にでも、引っ越し業者、問い合わせてみよ。引っ越しシーズンやないし、荷物も少なければ、すぐ受けてくれるやろ」
「……うん」

 少し間を置いて、頷くと。啓介が、オレを覗き込んだ。

「……どした?」
「いや……別に」
「ん?」

「……なんか…… こんな簡単にOKが出て、いよいよ、てなると」
「なると?」
「――――……ほんとに良いのかなあって」

 言ったオレの頬を、ぷに、と挟んで。

「いいのかなって何がや?」
「――――……お前と暮らしちゃって」

「せやから――――……何があかんの?」
「――――……」

 少し考えて。
 啓介を見上げた。


「……いけなくはないよ」

 言うと、啓介、クスクス笑う。


「いけなくはないんだけど――――…… そう簡単に別れたりできないけど、いいのかなって……言おうと、思ったんだけど……」
「――――……」

 オレは、啓介をまっすぐに見上げた。

「……でも、啓介は、別れないって言いそうだから。もういいやって思った」

 そう言ったら。

 啓介は、お、と眉を上げて。
 それから、すごく楽しそうに、笑った。


「――――……分かってきたやん」

 そんな言葉に、楽しそうだなあ、なんて、啓介を見上げていたら。
 肩に触れた手に引き寄せられて、キスされる。

 ゆっくり、触れるキスに。

 じっと、啓介を見つめていたら。
 同じくオレを見つめてた啓介の瞳が、ふ、と笑んだ。

 触れてた唇から、ぬる、と舌が入ってきて。


「……ン……」


 絡んだ舌に、自然と目を閉じる。



 ……啓介のキス。
 ずっと、好きじゃなかった。

 気持ち良すぎて。正気、奪われるし。
 息苦しくて。

 体、熱くなって、結局、その後、思い通りにされる事が多いし。



 好きじゃ、なかった。けど。

 でも、今は――――……。



「――――……」

 ゆっくり、唇が離れる。


「――――……?」


 ふ、と瞳を開けると、目の前に、優しい瞳。
 クス、と笑って。



「――――……キス、好きて顔、しとるな……」



 啓介の右手の親指が、唇をなぞる。


「……っ……」


 考えてた事、全部バレたみたいな気がして、かあっと、赤くなる。




しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...