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第1章
「分かりにくい」
しおりを挟む啓介の部屋に一緒に入って。
すぐ、シャワー浴びといで、と言われた。
まあ。ちょっと涙目だったり。早歩きで汗かいてたし。
……ちょうどいいやと思って、すぐシャワーを浴びた。
すっきりして出ていくと、啓介もさっさとバスルームに消えた。
水を飲んで、ぼーーー、とソファに座ってると。
啓介が戻ってきて。
ペットボトル片手に、オレの隣に座った。
「……どこ行こうとしてたん、お前」
「……もう一周、歩こうとしてただけ」
「なんやそれ……」
はー、とため息の啓介。
「ほしたら、ちゃんとうちには来ようと思うてた?」
「うん。思ってた」
「ならまあ、許すけど……」
髪の毛を撫でられて。
「……ドライヤーしよか」
優しく言って、啓介が立ち上がる。ドライヤーを取ってきてくれて、すぐに掛けてくれる。優しい手つきに、ほっとする。
乾くまで、無言で。気持ちよくて、ぼーっとしたまま。
「オレもやる……」
その後、啓介とチェンジした。
啓介の髪、乾かすの、今日2回目だ。
そんな風に思いながら、終えると。
「1日に2回も、かけてもらうとか――――……」
啓介も同じ事を思ったみたいで、クスクス笑う。
「……ありがとな」
言って、啓介がオレの手からドライヤーを取って片づけに行った。
戻ってきた啓介が、オレの髪に触れる。
「こん時の髪、めっちゃフワフワ」
クスクス笑いながら、撫でられる。
「――――……」
そのまま、ちゅ、と唇にキスされる。
すぐ離れたキスに、啓介を見上げる。
「……啓介さ」
「ん」
「……オレとこういう事するのは、今だけって、思ってる?」
「――――……なんや、それ」
ちょっと不服そうに、眉が寄る。
「……だって、オレが、女の子に行っても、怒んないって言ったじゃん」
「――――……」
「それが普通の事だって、言ったじゃん……」
「――――……」
言うと、啓介は、ふ、と苦笑い。
「確かにオレ、怒らないって言うたけど……」
「……?――――……」
「……おとなしく、行かせる訳、ないやん」
「……え?」
「怒ってもしゃあないから怒らんよ。まあ雅己にとったら、そこらへんて普通の事やろし、思うのは止められへんし、怒ってもしゃあないやろ」
「――――……」
「……せやけど……もしほんまに女のとこ行こうとしたら、最大限邪魔するし、どんな手使うても止めたいし…… 行かせないつもりやけど」
「――――……」
言い切る啓介に、オレは、何も言えず、ただ見上げて、自分の中で、啓介の言葉を繰り返す。
――――…………。
怒らないって、そういう意味?
……怒ってもしょうがないから、怒らないけど、
ちゃんと、行かせないようには、してくれんの?
……怒らないって、どうでもいいってほっとくって意味じゃ、ないのか。
「……分かりにくい、お前」
「は?」
「――――……オレが女のとこ行くのは普通だから、それならそれでもういいって、言ってんのかと、思った」
「――――……」
「そん時がきたら、それはしょうがないからって簡単に言って、オレたち、離れるんだと思った」
ため息をつきながらそう言うと。
しばらく、啓介は、無言。
ため息とともに下に落としていた視線を、ふ、と啓介にあげると。
啓介は、びっくりするくらい、なんか真顔。
「え、なに……?」
「なに、て――――……」
啓介はまっすぐオレを見下ろして。
「そんな事思うて、店、出てったん?」
「――――………」
「……涙目んなってたんも、それ?」
――――……あ、やば。
なんか、口走ったかも。
オレは、答えられずに、啓介から顔を背けた。
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