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第1章

「納得いかない」

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「本当に、申し訳ありませんでした」
「ほんま、こんくらい大丈夫やから」

  そんな、同じようなやりとりを数回して、ウエイトレスの女の子は、去って行った。

 オレの家に明日の荷物を取りに行った帰り道に寄った、ファミレス。
 啓介が注文したソースとは違うソースがかかったハンバーグが出てきた。

 ウエイトレスの女の子が、伝票を見ながらメニュー名を言って、そこで違う事に気が付いたらしく。急いで取り換えてきます、と言ったのだけれど、啓介はやんわり、断った。
 でも、という女の子に、大丈夫と何回か言って。

 そのやり取りを見てて、思った。

 ――――……絶対モテるよなー。
 優しいもんな。

 高校1年の時に会ってから、啓介が怒るとこや、人の文句言ってるとこ、やっぱりオレ、あんまり見た事ないや。そりゃ、多少はあるのかもだけど、ほとんど記憶に残ってない。

 意見としては言うから、それは、話し合うとか、そっちの方。
 その方がいい、と思う時に、陰で言うんじゃなくて、まっすぐ相手に伝えて、話し合う。
 
 考え方がとにかく前向きで、なんでもいい意味で受け取るし、だから人に対して出てくる言葉も、いつも優しくて、嫌な思いさせる事とか、無い。……気がする。

「……何や?」
「……いや。別に……お前は、モテるだろうなーと思って」

 じっと見つめてたオレに気付いて、首を傾げた啓介に、そう言ったら。
 啓介は、少し黙った。

「そういや、さっきも、モテるとか、そんなような話しとったん?」
「……あー、あれは…… 別にオレがモテたいとかで話してた訳じゃないんだけど……あいつらが勝手にそういう話にしたんだよ」

「……まあ。 お前の顔みたら、何となく分かったけど」
「何オレの顔って」
「オレはそんな事言ってない、って顔」

 クスクス笑う啓介に、はー、とため息。

「バレバレだったから怒らなかった?」
「んー……もし雅己がそう言ってたんやしても――……んな事で怒らんよ」
「……?」

「……モテたいとか思うのは普通の事やし。雅己を好きな子、オレも知っとるし。ほんで、雅己が彼女欲しいって思うても、普通の事やし」
「――――……」

「……そこは、オレが怒るような事やないやろ」
「――――……」

 そう言われれば、もちろんそうなんだけど。
 ――――……そう、なんだけど……。

 むしろ、そんな風に色々分かってくれる啓介って……いい奴なのは分かるのだけれど。


「食べよ、雅己」

 せっかく熱々のご飯が目の前にあるのに、何となく食べずに話してた事に、そのセリフで気付いて。啓介が渡してくれたフォークで、食べ始める。

 分かるんだけど。
 ――――……何、それ。

 オレが、彼女欲しいって思うの、普通なの?
 ……それで、いいのかよ。


 じゃあ、オレの事を好きな子を、もし、オレが好きになったら。
 お前は、それも仕方ないって言って、 オレと別れんの。

 ――――……オレが怒るような事やない、って、
 そんな風に言って、離れんのかよ。

 なんか。すごく、納得いかない。
 ……納得いかないという事にも、自分で納得いかない。


 友達として大好きだった啓介に、
 流されて付き合ってるとか、オレ、いつも思ってるくせに。

 そんな簡単に、オレが女の子の方に行ってもいいんだ、て思うと……。


 なんか、すごくムカつく――――……というか………怒りというよりも、なんか……。


 ……何だろう、……苦しい??
 ――――…… 胸、痛い……?

 ちょと待て。 整理しよう。 
 ひたすらもぐもぐ食べながら、自分の中の気持を整理する事にする。


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