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第1章

「先に寝る」

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 啓介が買ってきた物を皿に出したり、温め終えてくれていたので、オレがバスルームから戻ると、すぐに食事になった。
 
「そういや、啓介、昼、ちゃんと食べた?」
「ん。パンと卵と、雅己がおいてってくれたサラダ。ちゃんと食うたよ」
「そっか。もう平気かな、熱」

 ちら、と時計を見て、啓介はそうやな、と頷いた。

「もうこの時間で上がってないから平気やと思う」
「よかった。……珍しいよな、お前熱出すの」
「そやな。ほんま、何年ぶりやろ……」

「あ、そうだ、今日もめちゃくちゃ聞かれたぞ、お前の事」
「ああ…… はは、やっぱそうやったんか」

 笑い事じゃないんだぞ、と思いながら。

「女子にも聞かれた。 見舞い一緒に行こうかなーとか言われて……断ったけど」
「へえ。見舞い? 誰?」
「園田とかそこらへん」
「ああ……断ってくれてええよ。すまんな、色々」

 クスクス笑って、啓介が言う。

「あと――――…… ゼミの教授にも、聞かれた」
「ん?」

「杉森君は?って、オレにまっすぐ聞いてきたんだけど」
「……なして?」

「さあ……よく分かんねえけど。オレらって、教授にも公認なのかな……」
「――――……公認て」

 ふ、と啓介が笑う。

「ええの? 公認で」
「……だって、そんな風にしか感じないよ?」
「はは、そうなんや。まあオレは 嬉しいけど」
「オレは、周りに笑われたけどね。教授にまで聞かれてるって」
「あ、そーなんや」

 可笑しそうに笑いながら、啓介がオレを見つめてる。


 ――――……なんか、今日は、見つめられてるだけで、居心地悪い。
 やっぱり、ダメだ。今日は絶対ダメだ。


「なー、啓介、オレさぁ、今日さあ……」
「ん?」
「――――……すっごく疲れた訳」
「うん……?」

「……なんか、もうすっごく、眠いわけ」
「……ほんで?」

「……食べて片づけたら、寝ていい?」
「はあ。 まあええけど……」

 ……よし! 
 絶対寝る。

 今日は、絶対、このまま、何もさせないで、寝る。

 そう気合を入れながら、ご飯を頬張っていると。

 啓介が、何を思ったんだか、ぷっと吹きだして。
 そのまま、くすくす笑い続けている。

「……何で笑ってんの?」
「いんや、別に――――……」

「何だよ?」
「――――……何やろなー? なんや、可愛ぇなーと思って」
「は?」

 今の流れのどこに、オレが可愛い所があったんだ。
 謎すぎる。

「啓介って、ほんと、目、おかしいよな」
「……おかしくないわ」

 何だかな。
 ――――……まあとにかく、オレ今ちょっと、頭おかしくなってるから。

 啓介には、触らず、さっさと食事片づけて、歯磨いたら、先に寝よう。
 そうしよう。

 そして。

 作戦は、うまくいった。
 食事が終わって。片付けて。さっさと歯を磨いた。

 ソファで背もたれに埋まって、本を読んでた啓介に、ドアの所で声をかけた。

「啓介、先寝てる」
「んー? もう寝るん?――――……ちょっと、キリいいとこまで読んでから行くわ」
「了解。じゃなー」

「ああ……ちゅーか、まだ21時前やけど。 昨日のオレより早いやんか」

 啓介がそんな風に言って、笑いながらオレを振り返るけれど。

「おやすみー」
 ばいばい、と手を振って、ベッドに向かう。

「おやすみ」
 笑いを含んだ声が、後ろから聞こえてくる。 



 寝室の部屋のドアを閉める。
 もう部屋の電気を消して、そのまま、布団に入る。

 おやすみのキスとかも、警戒して、遠くから、おやすみを言ったし。
 成功なのか、されなかったし。

 うん、良かった。
 ――――……よし、寝よう。



 目をつむって、深呼吸。
 ――――……寝る寝る寝る。絶対先に、寝る……。


 ……啓介が、くる前に――――……。
 

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