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第1章
「可愛いって?」
しおりを挟む金曜5限のゼミ。 やっと、今週の全ての授業が終わる。
木金と、啓介が大学を休んで。
案の定、金曜も啓介の事を聞かれまくり。
――――……最後はもう、風邪で休みーとだけ伝えて終わらせようとした。
まあ、大体そこで終わらず、突っ込まれたけど。
なんか今日は、居ないのが2日目だったせいか、女子にもよく聞かれた。あんまり話した事もない女子にも、話しかけられた。
……ほんとモテるな、あいつ。
もうこれが終わったら帰るから、聞かれるのもさっきのが、最後だろ。
はー、疲れた。
そんな事を思いながら、近くに居る奴らと話していたら、ゼミの教授が入ってきた。定員10人の少人数制のゼミなので、ざっと皆の顔を見て、出席簿をチェックしながら。
「杉森くんはお休みかな?」
ぴた、とオレの所で視線を止めて、教授がまっすぐ聞いてくる。
「――――……熱があって、一昨日から倒れてます」
「珍しいですね。いつも元気なのに。お大事にと伝えてください」
「……はい」
――――……つか。教授にまで啓介の事聞かれた。
隣の奴らは、オレがこの2日間、聞かれ過ぎて面倒がってるのを知ってるので、ぷぷ、教授にまで聞かれてる、と静かに笑ってる。
…… オレ、このゼミん時、いつも啓介と座ってたっけ??
そんな事もなかったんだけどな。なんでオレに聞くんだ? お大事にって伝えてって……。
週1のゼミ教授にまで、オレ達公認の仲良しな訳……?
んーーーーー……どんだけなんだろ、マジで。
ゼミはあてられて答えなきゃいけないし、色々考えなきゃいけないのに。
全然身が入らず。でも、終わりまでどうにかこうにか乗り越えた。
5限が終わって、すぐ、皆に別れを告げて、階段を駆け下りる。
スマホを取り出して、啓介に電話。
「あ、もしもし、啓介?」
『雅己? いま終わった?』
「うん。今から帰る。熱は?」
『さっきは36度7分やった』
「嘘ついてねえ?」
『ついてへんよ。あとでくっついたらすぐバレるやんか』
「ならよかった」
『ん。ありがとなあ』
クスクス笑ってる啓介の声を聞きながら、駅までの道を小走り。
「夜何食べたい?」
『んー……弁当とかでもええよ』
「弁当? 普通に食える?」
『もう全然元気やから。まあ昨日も元気やったけど。……ほんま、なんでもええからさ……』
「ん?」
『早よ帰ってこいや』
「――――……っ……」
どき、と、心臓が弾んだ。
小走り、止まってしまう。
「……なにそれ…… 寂しがってんの……?」
『当ったり前やん。もー、めっちゃ長いわ、雅己無しで、ベッドに居んの』
「――――……」
『早う、帰ってきてや』
「……ん。 分かった」
電話を切って、スマホを鞄に入れて。
走り出す。
――――……やば。
……なんか今…… ちょっと、可愛いとか、思っちまった。
……いやいや、可愛くは、ないだろ、あいつ――――……。
だけどなんだか、ドキドキしてしまう。
なんだこれ。
駅について、電車を待つ間、どんどん恥ずかしくなってきて、口元に手の甲を押し当てて、俯く。
目の前に滑り込んできて停車した電車に乗って、窓の外に視線を送る。
なんか――――……わかんないけど。
今日は朝から5限まであったから、ずっと、啓介と離れてて。
いつもいつも側に居る啓介が、昨日今日とも居なくて。しかも今日は、朝から、ずっと長くて。
――――……少し……オレも、寂しかったのかな……。
ていうかたった半日……。
……それにしたって、可愛いってなんだ?
だいじょぶか、オレ……。
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