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第1章
「キス」2
しおりを挟む起こさないようにと、また最大限に静かに部屋を出ようと、啓介に背を向けた瞬間だった。
「……まさみ?」
びく!と大きく震えたのが自分で分かる。振り返ると、啓介がゆっくり体を起こしてて。思わずため息をついてしまう。
「……何で、起きんの。オレ、超静かにしてたのに」
「んー……気配……?」
クス、と笑いながら、啓介が、おいで、とベッドを叩く。そこにすとん、と腰かけて。
「……ごめん、寝てたのに」
「全然ええよ。……様子見にきてくれたんやろ?」
そんな風に言って、優しく、笑う。
「具合悪ぃ?」
「全然。ちょっとウトウトしとっただけ」
「そっか……」
でもこんな昼間っから、お前がうとうとするって事は、やっぱり体調悪いって事、だよな……。
「――――……?」
啓介が、そっと、オレの頬に触れた。
「どうかしたん?」
「……どうもしないけど?」
「……ああ、オレが構わんから寂しい、とか?」
そんな言葉に、ちょっと…… いや、かなり、ムッとして。
「……んな訳ないし。オレ、リビングに居るから、何かあったら、呼んで」
「――――……」
立ち上がろうとしたオレの手を、啓介は不意につかんで、ぐい、と引いた。
ベッドに座ってる啓介の胸の上に、倒れ込むような感じで、抱き締められる。
「……っ……」
「……ほんまに寂しいんか?」
「だから……寂しくなんかないって。離せよっ」
「堪忍な。ほんまだったら、ここで押し倒して、めちゃくちゃ可愛がりたいんやけどなー……」
髪をクシャクシャにされながら、よしよし、と撫でられる。
つか、そんな事してって言ってないし。ほんとにもう。
「――――……めっちゃキスしたい……」
また、唇に、指で、触れてくる。
あぁもう。 マジで、お前、それやめろって。キスする気ないなら、むやみに人の唇なぞってくんな。いつもキスされ過ぎてて、そんな風に触られるだけで、ゾクゾクするっつーのに……っ。
もう、ここまでくると、怒りすら湧いてきて。
「――――……っ」
その怒りの勢いのまま、啓介に、キス、してしまった。
「――――……」
唇を重ねて、少しして離して、近距離のまま、啓介を見上げる。
「……お前は、人が、我慢してんのに、何しとんの」
啓介は、眉を寄せて。そんな風に言う。
キスしてこんな顔されたの初めて。こっちまで自然と仏頂面になってしまう。
「……別に朝も一緒に寝てたし、うつるなら、もううつってるし」
「――――……せやから?」
「――――……」
「せやから、なに? キスしてもええ、て言うてんの?」
「――――……」
そんな質問に、オレが答えられるかどうか、絶対知ってるくせに。
わざと言わせようとしてくる啓介に、ほんとに、腹が立つ。
「……キスしてほしいん?」
啓介の瞳が、からかうように笑んで、じっと見つめてくる。
「――――……言うてみ?」
「……っ……したいなら、すれば、いいじゃん……」
「――――……」
啓介は、一瞬黙って、それから、クッと笑いだした。
「ほんまお前は――――……」
言いながら笑って、そのまま、ちゅ、とキスされる。
「――――……もっとしてもええの?」
「……」
なんか、聞きながら進むみたいな、それがもどかしくて。
黙ったまま首に腕を回した。
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