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第1章
「空気みたいな」
しおりを挟む「よ、雅己ー」
「おはよー」
声を掛けられて、すぐ。
「啓介は風邪で休みだよ」
そう言ったら、オレに話しかけてきた2人は、めちゃくちゃおかしそうに笑い出した。
「まだ何も言ってねーじゃん。まあ確かに思ったけど」
「なに、そんなに聞かれてんの?」
「……会う奴皆聞いてくる」
1限が終わって、のこり1コマ終われば今日は帰れる。
ここまで、会う人ほぼ皆に、啓介は?と聞かれた。
……オレって、そんなに啓介と居るって思われてんのか。
……まあ、確かに、居るか……。
とは思うのだけれど。ここまでとは思わなかった。
オレ、授業、数コマのぞいて、ほぼ啓介と一緒なんだな……。
と今更気づいたりして。
――――……なんか、あんまり自然に、空気みたいに居るから……。
……空気みたい、か……。
……空気みたいに、当たり前な――――……。
自分で考えて、そこに、すごく、ひっかかる。
授業が始まって。ぼんやり、啓介を思い出す。
具合、大丈夫かなー……朝は熱下がってたけど……ちゃんと寝てるかなー……。
なんだかな。
そばに居ても、離れてても。
とにかく、啓介が近くに居るのを感じるっていうこの事実。
ほんと、なんなんだかな。
――――……とりあえず、早く買い物して、啓介んとこ、帰ろ。
昼は、啓介の要望で、駅のお店で、おむすび購入。
夜は煮込みうどんにしようと思って材料を買ってきた。全部つっこんで煮るだけだからオレでもできるし。寝てるかもしれないから、チャイムを鳴らさずに鍵を開けて、中に入る。
――――……この鍵、本当にこのままもらうべきなのかな。
少し考えながら、とりあえず、鞄のポケットにしまう。
洗面台で手を洗ってから啓介が起きてるか覗きに行こうと思ったら。
「おかえり、雅己」
呼ばれて振り返る。啓介がニコニコしながら立ってた。
「あ、ただいま。起きてた? 熱は……?」
タオルで手を拭いて、啓介の額に触れる。
「――――……そんなに熱くはないけど……あとで計って」
「ん。あとで。でも元気やで、頭痛もないし……」
言いながら、啓介はオレの手を掴んで、ぎゅっと抱き締めてきた。
「おかえり、雅己」
「――――……うん」
「めっちゃ待ってた」
そんな言葉に、ふ、と笑ってしまう。
「おむすび買ってきたし、食おうぜ」
ぽんぽん、と背中を叩いて、引き離し、キッチンに向かう。
「啓介、熱計ってみて?」
「んー」
「おむすびと、緑茶で良い?」
「ん」
粉末の緑茶を淹れてたら、ぴぴ、と電子音が聞こえたので、振り返る。
「何度?」
「37度」
「んー?……啓介の平熱って何度?」
「36度5分位やろか」
「じゃあ微熱、なのかな。食べたら寝てな」
「ん」
「食べよーぜ」
「ん。おおきに。雅己」
「うん。いただきまーす」
食べながら、目の前の啓介を眺める。
顔色は悪くないなー。
元気そうに見えるし。
今日熱が上がらなければ大丈夫かな。
「学校、どうやった?」
「んー、いつも通り。……そういえばさ」
「ん」
「会う奴ほぼ皆に、啓介は?て聞かれた」
「――――……あ、そうなん?」
啓介、ふ、と苦笑い。
「オレ達って、そんなにずっと居るって思われてるんだなーって」
「ふーん……そうなんや」
「そうみたいだった。それでそんなに居るのかなーって考えたんだけどさ……」
「ん」
「……そういえば、お前って、別にべったりしすぎでもないし、なんかふわふわ、ずっと居るよなーって。 なんか、空気みたいだなと思いながら帰ってきた」
おむすび頬張りながら、思ってた事話してたら、啓介が、ぷ、と笑いだした。
「それ、どっちの意味や?」
「意味って何?」
「空気みたいに気にならないどーでもいい存在って意味か、居るのが当たり前で、無いと死んでまう位大事って意味か。 どっちで言うとる?」
「――――……」
ぱちぱち。瞬き。して。
――――……えーと……??
「いや、なんか……お前って気づけばふわふわっとずっとそばにいるなーって意味で…… どーでもいいとかじゃないし……」
「ほんなら、ないと死んでまう?」
「 ――――……っ……」
何も言えなくなって、顔が、熱くなる。
視線を彷徨わせてると。啓介がくす、と笑った。
「雅己、ほんま――――……アホやな」
「……は?」
「……意味ないって言ってもええとこやのに。そこでそんな真っ赤んなるから、オレが、調子ん乗るんやで?」
「……っ」
「まあ、オレが居ないと死んでまうって、思ったってことにしとくわ」
「……っっっ おもってない、しっ」
「はいはい。 ん、ごちそーさま」
お茶を飲んで、啓介は可笑しそうに、クスクス笑ってる。
……くっ。そ。
………つか。
オレ、こいつが居ないと、死にそうになんの?
「どうでもいい」と「死にそう」だったら……。
「どうでもいい」では、ない。
……こいつ、居なかったら、かー……。
静かだろうなー。
毎日。
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