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第1章

「啓介が風邪」1

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「見ろよ……8度3分だって……」
「……あー、いきなり具合悪なってきたわ……」

 急にぐったりして枕に沈んだ啓介に、オレは、苦笑い。

「それでちょうどいーんじゃねーの。ちゃんと寝てろよ。熱さまし飲む?」
「んー……今はええわ。寝る」

「じゃ水だけ」

 水を渡して、啓介に飲ませる。

「寝ても下がらなかったら、医者な」
「んー……」

 大人しく水を飲んで、ペットボトルを返してくる啓介。
 ふ、とため息を付いてしまう。

「もっとさ、自分の体に敏感になれよな? ……それにもう少し具合悪そうにしてくれればオレも早く気付けるのにさぁ……」

「せやかて、こんなに熱あるなんて思わなかったし。 ちとだるいのと、軽い頭痛がする位で……こんな熱、小学生以来やないかな……」

「だから敏感になれっつってんの。 お前がだるいとか頭痛いなんて、そうそうねぇんだから、そういう時はとりあえず言えよ」

 言い終えた所で、ふと、啓介がニコニコ笑いながらオレを見ている事に気付く。

「……んだよ?」
「雅己、心配してくれてんねんなぁて思たら、嬉しい」

「……呆れてんだけど、オレ」
「またまた照れてからに。 可愛ぇなぁ、もう」

「お前……とにかく、大人しく、寝てろよな……」

 寝室を出て。ため息をつく。
 結構熱あるのに、何であんなに軽口ばっか叩くんだか、本当に。

 と、思うのだが。
 ……きっと、心配させない為なんだろうなと、思って。 
 またため息をつく。


 オレが具合悪い時なんて、オレが自分で気付くよりも早く気付くくせに、
 何で自分の事には気付かないんだか……。


 ……やれやれ。
 
 冷蔵庫の隅の方を探すと、前にオレが熱を出した時の冷却シートを発見。

 あの時は付き合ってはなかったけど、学校で具合悪い事に気付かれて、この家に連れてこられて、3日間丸々看病してもらったっけ。

 冷却シートを手に、啓介の部屋に戻る。


「……雅己? どしたん……?」
「……お前、もうしゃべんなくていいから。 黙って寝てろよ」

 やっぱり少し、しゃべるのがだるそうで。
 オレが言うと、啓介はそのまま瞳を伏せた。

 冷却シートを啓介の額に乗せる。

「……きもちええ……」
「――――……ん」

「……ありがとな、雅己」
「ん」

 頷いて。瞳を伏せてる啓介を見つめる。
 こんな風に瞳を伏せてる様を上から見るのは、ちょっと新鮮。

「……な、もうええよ。布団あるとこ分かるやろ?向こうで寝て」
「……今夜はここにいる」

「せやけど……」
「……心配くらいさせろって。オレが具合悪い時はすげえ心配するくせにさ」
「――――……ん」

 啓介はふ、と瞳を開けて、オレを見つめて。
 その言葉の意味をどう取ったのか、とにかく、ふわ、と微笑んだ。

「あー……けど、風邪うつしてしもたら……」
「ここにいるって」

 お前熱なんてめったにださねーんだから。
 居るっつったら、居る。

「雅己……」

 啓介が困ったように見あげてくるので、オレは、ふ、と笑ってみせた。

「うつったら、看病してくれるだろ?」

 言った直後。
 啓介が突然動いて。
 次の瞬間には、すっぽりと抱き締められてしまっていた。


「……うつったらどうするってお前が言ったんだろ」

 クスクス笑いながらそう言ったけど、啓介を引き離す気は、全然ない。

 しばらくぎゅうう、とオレを抱き締めた後。

「……早よ治す」

 啓介は決意表明のように言い切ってから、渋々オレを離しベッドにあおむけに倒れた。いますぐにでも治してやると、そういわんばかりの表情に、笑ってしまう。

「何で急にそんな……?」

 すると。返ってきた答えは。

「せやかて、ほんまはめちゃくちゃ抱き締めてキスしたいし、抱きた……痛たたた!」


 啓介の言葉の途中で、その頬をぶににににっとひっぱる。

「……こんな時まで……黙ってろよ、馬鹿」

「……っ……オレは病人やでー」
「うっさい、変態、黙ってろ!!ちゃんと寝てろ!」

「……はいはい」
「『はい』は1回って習わなかった?」

「はーい」
「伸ばすなって習わなかった?」

「はい」

 クスクス笑いながら啓介は言って。すぐに目を閉じて、ふ、と息をついた。


 ……辛いんなら、黙って寝てればいーのに。
 早く治せよ、馬鹿。
 
 瞳を伏せた端正な顔をじっと見つめながら。
 しばらくしてやっと静かに眠り始めた啓介に、ほっと息をついた。

 布団から出てる手に触れると、熱い。

 そのまま、なんとなく、じっと見つめ続けた。






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